痒いところを掻く手はある

Titei-Yose-05-03


<風聞往来>


<地底旅行寄席はいかが>


大阪市内の西部、港区と大正区を分かつ境界を流れるのが尻無川。
その港区側の尻無川沿いに、
40年もの長い間、剥き出しの鉄骨を風雨に曝したままの、6000坪に及ぶ古い大きな工場群跡があった。
工場群跡と書いたが、実際には此処では5.60名の人々がずっと働きつづけてきた生活拠点たる砦でもあった。
「田中機械労働争議団」の拠点である、
70年代当時、戦前からの精糖機械メーカーとして中堅企業であった田中機械の経営陣は突然会社を倒産させる。決して業績不振だった訳でもないらしい。たえまなく組合が要求し続ける労働条件闘争に明け暮れる経営に嫌気がさしたともいわれる。
大和田幸治委員長率いる田中機械労働組合は直ちに工場を封鎖占拠した。
以来、彼らは生活と職場を守るため自主生産を続け、この工場群を生活拠点の砦としてきた。

89年には、温泉を掘削。その温泉の水を利用してミネラルウォーター「地底旅行」の販売を始めた。もちろん、温泉も組合員たちや地域の人々にも開放している。
98年には、イタリアのプラントを導入して、地ビール「地底旅行」を生産販売するようになり、同時に工場内中二階にレストラン「地底旅行」を開業。
その翌年からだと思うが、二階食堂を改装した田中機械ホールにて「地底旅行寄席」を月一回ペースで始めた。
この寄席が日の目を見、現在まで続いているのには、一昨年、露の五郎に代わって上方落語協会の会長となった桂三枝と幼馴染だった田中機械一職員との友情秘話が背景にある。
この寄席、今月で60回を数えるから、もう丸5年続いたことになる。

現在、先年の債権者側との調停和解により、敷地6000坪のうち4分の1にあたる1500坪ほどを田中機械労組側が占有し、残り4分の3の敷地はキングマンションに転売され、高層分譲マンションが急ピッチで建設中、近く第一期分譲分の入居が始まるだろう。

町工場と小さな商店街がひしめく下町の雰囲気がまだなおプンプンと臭い立つような空間と
まったく不似合いな対照をなす真新しい高層の分譲マンション群。
滅びゆく大阪の下町風景のなかで、気鋭の落語家たちの熱演を鑑賞した後は、工場レストランで地ビールを一杯ひっかける。

地底旅行寄席」 第60回
・日時 3月29日(火) 開演6:30 開場6:00
・場所 田中機械ホール
・前売 1000円 当日 1500円
・出演 桂都丸、桂三風、桂三ノ助、桂さん都
・電話予約有 Tell 090-8526--0327

みなさんいかがですか?


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<歩々到着>−4


山頭火こと種田正一が松崎尋常高等小学校高等科を修了し、
私立周陽学舎に入学したのは明治29年、数え15歳のこと。
周陽学舎は明治10年防府野崎の有志により設立された私立校で
明治41年の中学校令で周陽中学校となり、大正4年、県に移管され山口県防府中学校となる。
昭和23年の学制改革で、県立防府高校と改称され、翌年には防府高等女学校と統合され、現在の県立防府高校に至っている。
この周陽在学時に、正一は学友らと回覧雑誌の発行を始めていたらしい。
町の大人たちに混じって俳句の句会にも出ていたという話もあるようだ。
明治32年、数え18歳、周陽を首席で卒業し、県下随一の県立山口中学に4年編入している。
当時の山口中学は、高校への進学率が全国でも長らくトップの座を占めているほどの名門校。
立身出世主義に徹したスパルタ教育で名を馳せていたらしい。
文芸に名をなした国木田独歩、嘉村磯多、中原中也らも輩出しているが、彼らはある意味でこの全国有数のトップ校のはみだし者だったのだろうか。
天下の俊英・秀才の集う山口中学では、さすがに正一もあまり目立った存在ではなかったようだ。
途中編入でもあるし、同期生とのあいだに深い交わりもなく過ごしたのか、これといった音信も残されていない。
明治34年春、卒業時の成績は151名中22番だったという。4年編入というハンデを思えば優秀だったともいえようか。
同期生たちが、東京帝大、京都帝大へと進学していくなか、父親の放蕩やまぬ家庭内の問題もあってか、彼は進路を決めかねていた。
この頃、父・竹治郎は、妾の磯部コウを入籍している。彼女はサキ投身の以前から関係のあった女性。どうやらコウに女児が誕生したらしく、私生児にする訳にもいかず入籍の手続きとなったようだ。
同年5月、早稲田大学の初代学長になった高田早苗の遊説が山口市内の永楽座で催され、正一は高田の「国民教育論」を傾聴した。
この時の遊説は、大学設立の基金募集のために各地を廻っていたのだといわれる。
この講演を聴き、正一は早稲田へ行こうと決したようだ
同年7月、開通まもない山陽本線に乗って単身上京した。


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