2009-05-01から1ヶ月間の記事一覧

焼き捨てて日記の灰のこれだけか

山頭火の一句−昭和5年9月私はまた旅に出た。―― 所詮、乞食坊主以外の何物でもない私だった。愚かな旅人として一生流転せずにはゐられない私だった、浮き草のやうに、あの岸からこの岸へ、みじめなやすらかさを享楽してゐる私をあはれみ且つよろこぶ。 水は流…

―表象の森― 神の出遊遊とは、この隠れたる神の出遊をいうのが原義である。それは彷徨する神を意味した。 遊、その字形は、旗をもつ人の形にしるされているが、旗は氏族の標識であり、氏族の霊の宿るもの。 旗を掲げて行動するは、その氏族神とともに行動する…

しづけさは死ぬるばかりの水が流れて

山頭火の一句−昭和5年9月山頭火の行乞記「あの山越えて」は、熊本での「三八九-さんばく-」居の時期を挟んで二つの旅、前半は昭和5年9月から12月までのほぼ3ヶ月、後半は昭和6年の暮から翌年の4月まで約5ヶ月の旅となっている。 このみちや いくたりゆきし …

糸桜腹いつぱいに咲にけり

―世間虚仮― 寒冷渦夜は雨、二日続きの荒れ模様。この時期にしてめずらしいことだが、その原因は四国沖の寒冷渦とか。気象衛星の図を見れば、列島に大きな渦模様がかかっている。上空の偏西風から切り離された低気圧が動かず停滞したままなそうな。別名「切離…

迷うた道でそのまま泊る

山頭火の一句−昭和4年の早春かこれより先、昭和2.3年にかけてのいつ頃か、山頭火ははじめての四国遍歴をしている。その四国遍路のあと小豆島へと渡り、念願の放哉墓参を果たしている。暑い夏の盛りであったという。昭和4年の正月は広島で迎えたようだが、こ…

しよろしよろ水に藺のそよぐらん

―四方のたより― 育ちゆくもの、老いゆくものインフル休校の、週半ばの2.3日は、喘息症状に悩まされたKAORUKOも、明けて学校が始まるや、此方の心配をよそに本人はいたって元気な様子、学校から戻るや、その表情は見違えるようで、心身ともに溌剌としていつ…

昼ねぶる青鷺の身のたふとさよ

―表象の森― 白川静の遊字論白川静の「文字逍遥」-平凡社ライブラリ-の冒頭には「遊字論」が置かれ、「神の顕現」と小題された一文にはじまる。松岡正剛によれば、この「遊字論」の初出は、彼が嘗て編集していた雑誌「遊」での連載ということだ。-神の顕現- …

雨のやどりの無常迅速

―世間虚仮― 波乱の白熱二番昨夜来の寝不足が祟っていたのだろう、気怠さに身体中が支配されて、ただ茫としたままに、なんということもなしに結び近くの数番を眺めていたら、波乱の結び二番、白鵬・朝青龍の両横綱を破った琴欧州と日馬富士の、気力満点の白熱…

物うりの尻声高く名乗すて

―表象の森―「群島−世界論」-05-シマ、という、深い意味の消息を抱え込んだ日本語の音について考えはじめると、私の思考は底なしの淵に導かれるようにして、豊饒な意味連関の濁り水のなかを嬉々として泳ぎ巡る。シマ、と発声すれば、何よりもまず「島」が現れ…

加茂のやしろは能き社なり

―世間虚仮― 騒ぎの陰で‥一週間のインフル休校だけでも留守居役にはかなりの心身負担で災厄このうえないが、このたびはどうしたことか、小2になってもなお小児性アレルギーや小児喘息から脱皮-?-できないでいる我が娘KAORUKO、このところたしかに呼吸器に危…

堤より田の青やぎていさぎよき

―表象の森―「群島−世界論」-04-群島は、生者と死者の隠された繋がりをひきだす特権的な場である。そして、群島の特異な時相の翳のなかでひきだされる繋がりの環は、歴史的な想像力が媒介するよりはるかに、地理的なイマジネーションが導く発見としてある。「…

又も大事の鮓を取出す

―世間虚仮― インフル休校水際作戦も功を奏さず、メキシコ発の新型インフルエンザはとうとう国内での感染が蔓延しはじめたか、大阪府と兵庫県は学校封鎖に踏み切った。 大阪府は府下の中高全校を今週いっぱい休校の措置、大阪市では中高ばかりか小学校も幼稚…

うそつきに自慢いはせて遊ぶらん

―世間虚仮―「ゆびとま」消滅か今月の2日、360万余の会員登録からなるという同窓会サイト「ゆびとま」がまったく繋がらなくなって、以後なんの徴候もないいままにすでに半月が過ぎ、いまだ音無し。 無論、私が04年9月から営々と続けてきたブログの「Echoo」も…

生死の中の雪ふりしきる

山頭火の一句−昭和6年の作か?句集「鉢の子」では前書に「生を明らめ死を明らむるは仏家一大事の因縁なり-修証義-」を置く。 時期は些か外れるが、義庵和尚の許で出家して耕畝と改めた山頭火が、大正14年の早春から味取観音堂の堂守となり、翌年4月いよいよ…

人もわすれしあかそぶの水

―世間虚仮― 30代の自殺世界でも有数の自殺が多い国として知られる日本だが、バブル崩壊以降、若年層における自殺者の増加ぶりは著しく、とりわけ30代では、08年度4850人と、91-92年頃に比べてほぼ倍増しており、自殺原因としての伸びはうつ病が前年比21%増…

夕月夜岡の萱ねの御廟守る

<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>「灰汁桶の巻」−25 何おもひ草狼のなく 夕月夜岡の萱ねの御廟守る 芭蕉次男曰く、 秋の日既に斜になれば、名ある所々見残して、先、後醍醐帝御廟を拝む、 御廟年経て忍は何をしのぶ草 「野ざらし紀行」…

この旅、果てもない旅のつくつくぼうし

山頭火の一句−句集「鉢の子」所収だが、いつ詠まれたものか定かではないただその前書に「昭和二年三年、或は山陽道、或は山陰道、或は四国九州をあてもなくさまよふ」として、 踏みわける萩よすすきよ この旅、果てもないつくつくぼうし の2句が添えられてい…

何おもひ草狼のなく

―世間虚仮― 小沢辞任民主党小沢代表がとうとう辞任へ、と政局が動いた。 13日に党首討論という舞台を控えたタイミングはベストの選択か否か、些か首を傾げたくなるが、小沢の心中如何?<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>「灰汁桶の巻」−…

すさまじき女の智慧もはかなくて

―表象の森―「群島−世界論」-02-デルタと群島を結んで颱風のような螺旋運動を繰りかえす複数の歴史。その歴史とは、死者の痕跡-トラース-のことである。現在の痕跡は、死者によって残されたものであり、それを読みとるのは生者ばかりではない。というより、生…

分け入つても分け入つても青い山

山頭火の一句−句集「鉢の子」では「大正15年4月、解くすべもない惑ひを背負うて、行乞流転の旅に出た」と詞書する、よく知られた代表句放哉の「入庵雑記」を読んで彼への思慕を募らせた山頭火だったが、同じ頃、放哉は放哉で、未だ互いにまみえぬながら俳誌…

旅の馳走に有明しをく

―表象の森―「群島−世界論」-01-にごり、澱みながら、緩やかにたゆたい流れる水の氾濫のイメージが天地をことごとく覆い尽くしている。 光も、闇も、事物の輪郭も、人の影ですらも、そこでは水の乱反射する輝きと機敏な運動性によって、すみずみまで統率され…

鴉啼いてわたしも一人

山頭火の一句−大正15年の句、「放哉居士の作に和して」と詞書山林独住の味取観音堂での堂守暮しは、気ままな托鉢とともに、時に久しく遠ざかっていた近在の俳友たちを訪ね歩くといったもので、その友人たちから俳誌「層雲」を借りて読むようになっていた山頭…

冬空のあれに成たる北颪

―表象の森― 絵金を覗く1000円渋滞の心配もよそに、土佐の絵金蔵を訪ねてみようと思い立ち、4.5の両日、高知に旅してきた。 往きはまだ明けやらぬ早朝のうちに出立したから、中国道池田から上がって山陽道をとり、瀬戸大橋から四国高知へ、なんの障りもなく…

日ざかりの水鳥は流れる

山頭火の一句−大正15年8月の頃かこの年の6月、山頭火は味取観音堂の安穏とした堂守暮しを捨てて行乞の旅に出た。 ―表象の森― 三つの弓なりの花かざり「大地と大洋がもつ意識、それが無人島であり、世界の再開に備えている」 -ジル・ドゥルーズ「無人島の原因…

柴さす家のむねをからげる

<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>「灰汁桶の巻」−20 かへるやら山陰伝ふ四十から 柴さす家のむねをからげる 去来次男曰く、雑の句。二句一幅の、山家の景とみてよくわかる。 「帰る」と「替へる」を通いにした気転がみそで、思付はただ…

十何年過ぎ去つた風の音

山頭火の一句−「地橙孫即興」と詞書あり山頭火は昭和4年2月、北九州を行乞しているが、この折下関の地橙孫を訪ね「半日清談」をしたとあり、この時の句であろう。地橙孫-兼崎理蔵-は河東碧梧桐に師事。熊本五校から京大独法に進んだ彼は弁護士でもあった。こ…

かへるやら山陰伝ふ四十から

<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>「灰汁桶の巻」−19 木曽の酢茎に春もくれつゝ かへるやら山陰伝ふ四十から 野水次男曰く、折を跨って-折立-、春三句目の作りである。そうではあるが、何を以て季としたのだろう、と見咎めさせるところ…