岩かげまさしく水が湧いてゐる

gakusya-03-04-004-01


<日々余話>


ネパールの子どもたちと、政情不安>


ネパールの政情不安は依然改善しないままつづいているようだ。
外務省による渡航危険情報によれば、退避勧告の対象地域にこそなってはいないが、中西部の渡航延期を勧める地域、首都カトマンズ周辺やポカラの町周辺においては渡航の是非を検討すべき地域とされている。
数年前からマオイストたちによる王国制打倒をめざす反政府のゲリラ活動が活発化、全国土にひろがっているからだ。
そんな不安な情勢のなか、個人ツーリストさえほとんど訪れなくなったポカラから、重度身障者の詩人である岸本康弘氏が帰国してきているので、久々にあって近況報告など聞かせてもらった。以前、この欄でも紹介したことのあるネパールの最貧層の子どもらに無償で教育の機会を提供するためネパール岸本学校を運営している車椅子の詩人である。
政情不安がつづくなかで観光産業が落ち込みっぱなしのネパール経済は深刻なインフレがどんどんすすむ。カースト制度が厳しく職にもつけない貧しい下層の人々はさらに極貧の生活へと追いやられてゆく。
もちろん義務教育の無償制度などない。初等教育さえ受けられない子どもたちはまだまだ多いという。親が費用を負担しなければならないから、男尊女卑の風潮がなお色濃いこの社会で下層民の家に生れた女児たちはほとんど教育の機会を奪われている。
無償で教育機会を提供している彼−岸本のポカラの学校は、その差別にも挑戦している。
就学している男女比率は4:6で女子を多く採っているというのだ。
満一歳の頃に病んだ高熱から身体が不自由となり就学できなかった彼は、おばあちゃん子で育ったというから、そんな自分の幼年時代も影を落としているのかもしれない。差別に対する意識改革、そしてむしろ女子にこそ教育の機会をひろく与えたいと考えているそうな。
また、彼の学校でこんな事件もあったと聞かせてくれた話だが、ある日、通ってきている腕白盛りの男の子が遊んでいて腕を骨折してしまった。日本なら腕の骨折くらいたいした事件でもない。すぐに救急車を呼んで病院に行けば、子どものことだから治りも早い、まあ1ヶ月もあれば完治するだろう。
ところがネパールでは健康保険などという制度もないというから、治療費がそれこそ莫大な金額となるのである。一家の全年収をこえるような額を請求されることになるのが医療の実態らしい。だから医者にはかけられない。骨折した腕は不運とあきらめて切り落とすしかないというのだ。そんな事情だから、ただの骨折から片足のない子、片腕のない子というようにたくさんの身障者が生まれている。
校庭で遊んでいて骨折したその男の子を自分のような身障者にする訳にはいかないと、彼−岸本は費用を全部負担して治療を受けさせたという。


現在、ポカラの岸本学校では160人の子どもたちが通学している。
日本では幼稚園にあたる初級クラス6才児と7才児の二年。小学校にあたるのが一年生(8才児)から五年生(13才児)、全部で七学年にわたる子どもたちが遠くからでも元気よく毎日通っているそうだ。
政情不安のつづくネパールの子どもたちに、希望に満ちた明日をひらく仕事はなおもねばりづよくつづけられている。


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