わたつみとあれにし牀を‥‥

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Information−Aliti Buyoh Festival 2006−


−今日の独言− 2005年、不帰となった人々

 今年、不帰の人となった著名人一覧を見る。記憶に新しいところでは、11月6日、歌手の本田美奈子38歳の骨髄性白血病によるその若すぎる悲運の死は多くの人に惜しまれた。また12月15日、オリックス監督だった仰木彬70歳、癌の進行を耐えながら決して表に出さず野球人生をまっとうした見事な死に世間は多いに感動しつつ悼んだ。9月19日、晩節は苦渋に満ちたものだったろうが一代の成功者、ダイエー創業の中内功83歳と、政界のご意見番的長老後藤田正晴91歳が同じ日に旅立っている。花田兄弟骨肉の争いがマスコミに格好の餌食となった元大関貴乃花55歳の死も晩節の孤独を思えば悲しくも侘しい。別な意味で記憶に残るのが薬害エイズ事件の被告安倍英88歳、認知症のため高裁公判が停止されたまま心原性ショックで4月15日不帰の人となったのは本人にとってはむしろ幸いであったろう。映画関係では先ず小森のオバチャマで一世を風靡した小森和子95歳、岡本喜八81歳と野村芳太郎85歳の両監督に加えて石井輝男81歳。作家丹羽文雄は100歳と天寿を全うの大往生。同じく作家の倉橋由美子69歳はまだまだ彼女独特のワールドが期待できた惜しむべき死。あの「あぶさん」が懐かしい漫画家永島慎二67歳の死もまた惜しまれる。建築家の丹下健三91歳、清家清86歳と大御所が相次いでいる。あと上方の芸能界では吉本の岡八郎67歳、講談の旭堂南陵88歳。海外では天安門事件で失脚の憂目をみた中国共産党総書記だった趙紫陽85歳と、アメリカの第二次大戦後を代表する社会派劇作家アーサー・ミラー89歳の死が眼を惹く。
 最後に、個人的に強い感慨をもって悼むべきを挙げれば、6月9日歌人塚本邦雄84歳と、8月2日劇作・演出家秋浜悟史70歳、ご両所の死である。―― ただ黙して合掌するのみ。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<恋−7>
 むばたまの妹が黒髪今宵もやわがなき牀(とこ)に靡きいでぬらむ  詠み人知らず

拾遺集、恋、題知らず。
むばたまの=ぬばたまの(鳥羽玉の)−黒や夜に掛かる枕詞。ヒオウギ(檜扇)という植物の黒色球状の種子とされる。平安期にはむばたまの、うばたまのと用いられた。
邦雄曰く、男の訪れの途絶えたのを恨む歌は数知れないが、男のほうが疎遠になった女を思いやる作品は珍しい。自分の居ない閨に、愛人の髪が「靡きいでぬらむ」とは、いかにも官能的でなまなましい。誰か他の男の通うことを案じるのが通例だろうが、この初々しさはそのまま若さでもあろう、と。


 わたつみとあれにし牀をいまさらに払はば袖や泡と浮きなむ  伊勢

古今集、恋、題知らず。生没年不詳。伊勢守藤原継蔭の女。宇多天皇中宮温子(基経女)に仕え、温子の兄仲平と恋愛し、天皇の寵を受け皇子を生み、また、皇子敦慶親王との間にも中務を生んだ恋多き女
邦雄曰く、男が夜離(よが)れして久しく、閨も夜床も、あたかも荒海さながらに凄まじくなり果てた。今更、訪れを期待して払ったら、袖は溢れる涙のために、かつ海の潮に揉まれて、泡のように漂うだろうとの、いささか比較を絶した譬喩が、むしろ慄然たる味を生む。「わたつみ」にさほどの重い意味はないが、泡との照応もまたかりそめのものではない、と。


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