知らずその逢瀬やいつの水無瀬川‥‥

Gakusya06032405

Information−Shihohkan Dace-Café−


−四方のたより− きしもと学舎だより06.09

カースト制度が色濃く残るネパールのポカラで、学校に行けない子どもらに無償で学ぶ場を提供しつづけている、車椅子の詩人・岸本康弘さんから、今年も「学舎だより」が届いた。
ここ数年、ネパールの国内情勢は国王と議会とマオイストの三つ巴の紛争・騒乱が続き、国王が軍を掌握し、戒厳令状態にも似た緊張は出口の見えない状態にあったが、4月下旬頃よりようやく民主化への道を歩み出したようで、平穏を取り戻しつつある。
以下、彼からの挨拶文を掲載紹介しておきたい。


「ネパールからの近況報告」                岸本康弘
皆様、いつもご無沙汰をして申し訳ございません。
昨年の秋から長らくネパール・カトマンズやポカラの岸本学舎に滞在して、今は日本に帰宅して、学舎のこれからの対策をいろいろ考えています。
ネパールでは一昨年から今年の春にかけて、国王が権力を強化し、民衆は民主化への力を高めて対立し、ほんとに一発触発の危機が常にありました。ときどき戒厳令が出たりして、市民もぼくたちの海外支援者も思うように活動ができませんでした。今年四月頃になると、多くの海外の支援者は引き揚げていきましたが、ぼくはわりあい楽観的に見ておりました。この国は観光が唯一の資源と言ってもいいところなので、国王が軍を動かして権力を発揮しても、この事態が長引けば観光事業が立ち行かなくなると思えたからです。案の定、国王は退き、国会が開催され、近く総選挙が実施される運びになりました。いろいろな政党が乱立しているので、当分は安定的な展開は難しいでしょうが、とにかくネパールの民衆は再度、民主化の道を歩み出しております。これらのことに関しては日本の新聞などにも報道されているのでご存じだとは思いますが、現地の人たちにはそんなに悲壮感はありません。金持ちの人たちは外国へ脱出して安穏と暮らしたいと言いますが、どうして少しでも自国を建て直そうとしないのかと、ぼくは憤りをおぼえます。
 貧しい国ですが、まだ自然は残っているので、そのなかで心身を豊かに育んでいけば世界に伍していける人が輩出できると思います。そんな想いを、子どもたちに言い聞かせております。
ぼくも徐々に年齢を重ね、資金の面でも大変で、年金を投入したりして苦労しています。いろいろ対策も考えていますが、皆様のご支援を一層よろしくお願いいたします。
ネパールも今は安全になっておりますので、ヒマラヤの観光をかねてポカラの岸本学舎を訪ねてくださるようにお待ちしております。
お便り、いつも遅れて申し訳ございません。年二回の発行をめざします。

きしもと学舎の会 HP


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<恋−46>
 網代ゆく宇治の川波流れても氷魚の屍を見せむとぞ思ふ   藤原元真

元真集、忘れたる人に言ひやる。
邦雄曰く、愛に渇いて心は死んだ。あたかも水の涸れた宇治の田上川の氷魚さながら。その無惨な姿を無情な人に見せたい。恨恋の歌も数多あるが、これは風変わりでいささか埒を越えている。この歌の、女からの返しが傑作で、「世にし経ば海月(クラゲ)の骨は見もしてむ網代の氷魚は寄る方もなし」。あるいは殊更に疎遠を装う二人の、諧謔を込めた応酬だろうか、と。


 知らずその逢瀬やいつの水無瀬川たのむ契りはありて行くとも  下冷泉政為

碧玉集、恋、恋川、前内大臣家会に。
邦雄曰く、逢うとは言った。それを頼みに行くのだが、肝心の夜はいつも知らされてはいない。あるいはその場逃れの約束だったのでは。「いつの水無瀬」の不安な響きが「知らず、その逢瀬」なる珍しい語割れの初句切れと、不思議な、あやうい均衡を見せている。「袖の露はなほ干しあへずたのめつる夕轟きの山風の声」は「恋山」。いずれも秀れた調べである、と。


⇒⇒⇒ この記事を読まれた方は此処をクリック。