腰かける岩を覚えてゐる

Dc0907072

Information-四方館 DANCE CAFF-「出遊−上弦月彷徨篇」

―山頭火の一句― 昭和5年の行乞記、11月6日の稿に
11月6日、晴后曇、行程6里、竹田町、朝日屋

急に寒くなつた、吐く息が白く見える、8時近くなつてから出発する、牧口、緒方といふ町を行乞する、牧口といふところは人間はあまりよくないが、土地はなかなかよい、丘の上にあつて四方の遠山を見遙かす眺望は気に入つた、緒方では或る家に呼び入れられて回向した、おかみさんがソフトクフ-曹洞宗の意味!-といつて、たいへん喜んで下さつたが、皮肉を言へば、その喜びとお布施とは反比例してゐた、また造り酒屋で一杯ひつかけた、安くて多かつたのはうれしかつた、そこからここまでの2里の山路はよかつた、丘から丘へ、上るかと思へば下り、下るかと思へば上る、そして水の音、雑木紅葉−私の最も好きな風景である、ずゐぶん急いだけれど、去年馴染の此宿に着いたのは、もう電灯がついてからだつた、すぐ入浴、そして一杯、往生安楽国!

竹田は蓮根町といはれてゐるだけあつてトンネルの多いのには驚く、ここへ来るまでに8つの洞門くぐつたのである。-略-

坊主枕はよかつたこんな些事でもうれしくて旅情を紛らすことがてぎる、汽車の響はよくない、それを見るのは尚はいけない、ここからK市へは近いから、1円50銭の3時間で帰れば帰られる、感情が多少動揺しても無理はなからうじやないか。-略-

同宿の老人はたしかに変人奇人に違ひない、金持ださうなが、見すぼらしい風采で、いつも酒を飲み本を読んでゐる。

※表題句の外、
すこしさみしうてこのはがきかく −元寛氏、時雨亭氏に
あなたの足袋でここまで三十里 −闘牛児氏に
など13句を記す


―四方のたより― 学舎の会だより

「きしもと学舎の会だより」第11号-09.09.10発行-の会員への発送もほぼ了えたようである。
巻頭に置かれた岸本康弘自身の手紙形式の一文も、今回は体制転換の事もあって、ずいぶんと長くなっているが、以下全文を掲載しておきたい。

「新たな支援体制をめざして!」
ご無沙汰しておりますが、その後も益々ご清栄のことと思います。ぼくは年齢のせいで手足がしびれて痛み、体は殆ど動きません。先般いちおう帰国しました。

ぼくがネパール・ポカラで小学校を始めてから十三年になります。庶民無視の王政が倒れて三年になり、民主政治が施行されています。しかし権力争いが絶えず、いまだに選挙も行われていません。ケータイ電話が急速に普及して貧富の差が大きくなっています。資本主義社会は進展していきますが、多くの人は定職に就けず、家族それぞれの助け合いの中で生きているのが現状です。ただ、余裕のある家庭の子弟たちは外国に進出する機会を狙っており、各国大使館ではビザ発給の申請に来る人たちでいっぱいです。日本大使館も同様です。

人はそんなに富まなくても、学校である程度の知識を学び、それぞれが生み出した知恵を発揮して家族や友だちと仲良く、つつがなく暮らして行けたら、幸せにちがいありません。

その、誰もが持てるはずの幸せが、ぼくがネパールに来た当時は不足していました。絶対王制下で学校も足りなかったのです。それが三年前に国王が追い出され民主的な政治体制になり、ぼくが暮らすポカラ周辺にも公立学校や私立学校もずいぶん増えてきました。

ぼくは、こうした変化を直に肌で感じながら、現地で体調を崩して入院した日々のベッドの中で、年齢とともにますます弱りゆくぼく自身に残された寿命と向き合いつつ、今後の処し方や学舎の運営などを見直していこう、と思い始めたのでした。

たとえば、この学舎に通う子どもたちを、徐々に他の公立校へと移し、その子どもたちひとりひとりへの通学支援、無償の奨学金支給をしていく形へと移行させるのはどうか、と。これなら子どもたちも安心だし、ぼくに万一ある時−それはぼく自身の死以外のなにものでもないわけですが−も支援を継続できるかと思われます。

これからは、学舎の運営から、通学支援の形態へと移行をはかるとともに、支援体制の継続保証にも、万全を期していきたいのです。それには皆様のご支援こそ大きな励みであり、頼みともなります。
岸本学舎の発端は、ぼくが昔、足が不自由なために小学校を就学免除になり通学できなかった悔しさによるものです。九歳で父が亡くなり貧困に耐えながら、独りで必死に勉強したのです。だから、幼い子どもたちに、ぼくの経験したあの苦しみを味わせたくないし、非常に酷だと思うのです。その想いが、岸本学舎に繋がっています。

岸本学舎が誕生して丸十二年になりますが、時折、ポカラの路上で、学舎を終えてすでに結婚した女子に出会うことがあります。嬉しいこともさることながら、時の流れの速さに驚いてしまいます。

いろいろと書いてきましたが、皆様には、よく事態をご理解いただき、変わらぬご支援を、切にお願い申し上げます。ぼくも命のつづくかぎり努力してまいります。どうか、くれぐれもよろしく。
     2009年9月/岸本康弘

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