7年ぶりとなる神戸酒心館行であったが…

「葵上空間」と題された今宵の演目は
残念ながら瑕疵の目立つものであった
とりわけお粗末だったのは
女性のシテ方が演じた、素面による演能だ
声も立たず、メリハリも効かず
姿も小柄に過ぎては、救い難いというモノ
素面による演能を、見世物として成らしめるには
どれほどの達者を要するか――

―表象の森― Turbulent Flow−乱流  −2008.02.26記

「大きな渦は、その勢いに力を得て
 ぐるぐるまわる小さな渦を含み
 その小さな渦の中には、これまた
 ひとまわり小さな渦がある。
 こうしてこれが遂には
 粘度となっていくのだ」 ――ルイス・F・リチャードソン

量子力学学者W・K・ハイゼンベルクは死の床で「あの世に行ったら、神にぜひとも聞きたいことが二つある。その一つは相対性のわけ、第二は乱流の理由だ」と。そして「神のことだからまあ第一の質問のほうには答えてくれるだろうと思うね」と結んだそうである。
乱流の理由など、神様のほうでも取るに足らぬと思し召して相手にはしてくれまい、とでもH氏は考えたか。
ことほどさように、20世紀前半の物理学者たち、その大多数にとって乱流などに時間をとられるのは剣呑にすぎると思われていたのか。

それにしても乱流とはいったい何だろうか?
大きな渦のなかに小さい渦が含まれているように、乱流とはあらゆる規模—Scale-を通じて起こる混乱のことだ。乱流は不安定であり非常に散逸的だが、散逸的とはエネルギーを消耗させ、抗力を生じるということである。
その乱流の起こりはじめ、つまり遷移のところが科学の重大な謎だった。

<Strange Attractor>

これは現代科学の最も強力な発明の一つである位相空間という場所に住んでいる。
系のエネルギーは摩擦によって散逸するが、位相空間ではその散逸はエネルギーの外域から低エネルギーの内域へと、軌道を中心にひきつける「ひきこみ」となって現れる。
エドワード・ローレンツが作った骨組だけの流体対流の系は三次元だったが、それは流体が三次元の空間の中を動いていくからではなく、どんな瞬間の流体の状態をも正確に決定するためには、三つの異なった数-変数-が必要だったからである。
  
 ――参照:J.グリック「カオス−新しい科学をつくる」第5章−ストレンジ・アトラク

<今月の購入本>−2013年03月

◇副島 隆彦「世界権力者 人物図鑑−世界と日本を動かす本当の支配者たち」日本文芸社
こうの史代夕凪の街 桜の国双葉社アクションコミックス
◇米田 憲司「御巣鷹の謎を追う−日航123便事故20年」DVD-宝島社