はだかいつぱいの月あかり

041219-001-1
  Information「四方館 Dance Cafe」


<身体・表象> −7


<心−こころ−凝ること>


異常と呼ばれ、病める心というものが、正常な健やかな心と思われているものと、どれほどの隔たりがあるのか、あるいはどんな壁に隔てられているのかということについて、精神病理など門外漢の私などには言うべきほどのことはなにもないのだが、ただ、自分のまだ幼い子どものその成長のなかで、時に垣間見せられる不可解な無意識の反応や挙動なりを考えてみると、正常と異常の心的領域のあいだには、本来比較的容易に往来可能な相互浸透的な帯状ともなった領域があるのではないかなどと思わされるのである。
人はだれでも無意識の裡に閉じ込められた異常な反応なり挙動が、自身に降りかかった出来事の緊迫性のなかで、突然顕わになることは稀にだとしてもありうるだろう。
私自身にだって、長い人生のなかで、少なくとも「我れを失った−心的危機状態」に陥ったことは幾度かあったように思う。その状態を脱してのちに、アイデンティティの危機とはこういうものだったかと思い返されたりしたものである。


心−こころ−とは、意識も無意識も含めてだが、凝る−こる−に通じているものだろう。
白川静の常用字解によれば、心という字は象形文字であり、心臓の形をあらわしている。さらに和語としての「こころ」は元来「凝り固まるところ」の意味である。
ならば、心−凝り固まるところ−のその凝り型が過ぎたれば、異常ともみえようし、病めるともみえよう。その逆に、凝り型が少なれば溶けるに似て心あらずとなり、これまた異常とも病める心ともなる。
その心−こころ−の凝り型において、個々に顕れるありようはそれぞれ固有の刻印を帯びていて、万能のものさしなどある筈もなく、つねに手探りで他者の心へと向かわねばならないが、ここにひとつの参考事例として、以前に読んだドナ・ウィリアムズの「自閉症だったわたしへ」の終章−エピローグ−から、自らを省みて「わたしの世界のことば」として列挙しているものを長くなるが要約紹介しておこう。


−D.ウイリアムズ「自閉症だったわたしへ」エピーローグより要約−
1; 物を二つずつペアにすること、あるいは同じようなもの同士をグループ分けすること
  −物同士の関係、つながりがあることの確認。
  −物のつながりが可能ならば、「世の中」とのつながりを感じ、受け容れることへの希望。
2; 物やシンボルを整理したり秩序立てたりすること
  −物がどこかに属していることの確認。「世の中」の秩序を感じとることへのアプローチ。
  −自分の特別な、決定的な居場所が「世の中」にあることへの希望、いつの日か感じられる。
3; 模様や図形、パターン
  −連続性を意味する。同じ状態でいられることは、安堵感を与えてくれる。
  −何かを囲むような丸や境界線は、自分の外部、「世の中」からの侵入を防ぐための防波堤。
4; 激しいまばたきの繰り返し
  −物事の速度を弛め、周囲をより遠ざけることで、現実感は薄らぎ、恐怖心も和らぐ。
5; 明かりをつけたり消したりすること
  −⒋に同じ。カチカチとスイッチの音が、感覚的に快く、安らぎさえ感じる。
  −パターン化されているほど、予測がつきやすいほど、安堵感は強まる。
6; 繰り返し物を落とすこと
  −自由を意味する。自由への逃走が可能であることを示す。
7; 跳び下りること
  −6に同じ。自由に向かって逃げるといえ概念を、体で確認させてくれるものでもある。
8; 片足ずつに体重をかけて、体を揺らすこと
  −自分と「世の中」との間には、つねに不吉な予感がする暗闇が口を開けている。
  −この暗闇を飛び越えて向こう側へ行きたい衝動に、跳ぶ前のウォーミングアップのように。
  −しかし、決してその恐怖を克服して跳ぶことはできなかった‥‥。
9; 体を揺らすこと、自分の手を握ること、頭を打ちつけること、物をたたくこと、自分の顎をたたくこと
  −自分を解放してやすらぎを得るため。不安や緊張を緩和し、恐怖を和らげる。
  −動きが激しいほど、闘っている不安や緊張も強い。
10; 頭を打ちつけること
  −心が金切り声を上げている時、その緊張と闘い、頭に物理的なリズムを与えるために行う。
11; 物自体を見ずに、その向こう側を透視するように見ること、何か他のものを見ているように見えること
  −周りで起こっている事を受け容れるため、間接的なものに換え、恐怖心を取り除こうとする。
  −物事を受け容れるのに唯一の方法。自動操縦的な手法。
12; 笑い
  −恐怖、緊張、不安などを解放する手段。
13; 手をたたくこと
  −喜びの表現だったり、終りを意味する表現だったり。
14; 宙を見つめたり物の向こう側をじっと見つめること、ものを回したり自分がくるくる回ること、同じ所をぐるぐると走り回ること
  −自分をリラックスさせたり、あるもどかしさをやり過ごしたり、
  −或は、絶望した時に陥る、精神の上での自殺のようなものでもありうる。
15; 紙を破くこと
  −近しさや親しさからくる脅威を払いのけようとする、象徴的な行為。
16; ガラスを割ること
  −自分と他人との間にそびえる眼に見えない壁を打ち砕こうとする、象徴的な行為。
17; きれいな色の物や光る物に対する愛着
  −自分を落ち着かせたり、リラックスさせたりするための道具。
  −これらは各々ある人たちを特別に思う気持ちが込められてもいる。
18; 自分を傷つけること、他の人をとまどわせるような行為をわざとすること
  −自分、或は他人が、どの程度現実のものであるのか試そうとしている。
19; 故意のお漏らし
  −私はこの行為を卒業した時に、自分の殻から出ようとする勇気が、再び湧いてきたのを覚えている。
  −自分の周りを「自分の世界」の一部にしてゆくという、象徴的な行為。
20; 物理的な接触で、可能なもの、安心していられるもの
  −顔に触れられることは脅威だが、腕や髪に触れられるのはある快さもあり、安心でいられる場合がある。
  −自分がダメな時は、あらゆる接触が苦痛となるが‥‥。


⇒⇒⇒ この記事を読まれた方は此処をクリック。