燃ゆる火の、雨ふらしめと燃えさかる

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<古今東西−書畫往還>


サウンドスケープ論−「平安京 音の宇宙」>


サウンドスケープ−Soundscape−というあまり耳慣れない言葉がある。
音のサウンド-sound-と、〜の眺めや景を意味する接尾語であるスケープ−scape−の複合語で、カナダの現代音楽家R.・マリー・シェーファーによって60年代に提唱されたもので、日本語でいうならば「音の風景」となろうか。音の環境をあらゆる側面から総合的に捉えなおす視点から文化や環境デザインなど重層的な研究や実践が取り組まれているようだ。


そのサウンドスケープに関しての著名な書とされる「平安京 音の宇宙」という書を読んでみた。
著者中川真氏は現在大阪市立大学大学院教授であるが、バリ島の民族音楽ガムラン」の演奏グループ「マルガ・サリ」の代表であり、80年代以降の日本でのガムラン音楽ブームの火付役でもある。
本書は、古代京都の原風景の香りを残すという下鴨神社の糺森の音風景に聴き入ることからはじまり、平安朝文学、紫式部の「源氏物語」や清少納言の「枕草子」を音の環境や風景から読み解いてゆくとどんな世界が展開し、どんな特色が見出されてくるかを紡ぎだしていく。
「今昔物語」にひそむ鬼の声や闇のなかの音、あるいは中世都市民たちのカオスというべき「永長の大田楽」のざわめき、静謐の侘び寂びへと徹した利休の茶の世界の音、さらには空也・一遍の踊念仏から盆踊りへとつらなる音風景の変容など、著者の軽快なフットワークは文学・美術・建築・都市環境・祭礼・日常生活その他のあいだを駆けめぐる。


著者は中世古都の音環境を論じつつ、「中世の音楽思想家は、管絃や声明の実現を単なる音現象としてではなく、方位や色彩などと関連しながら世界が開示される、全体的な経験の場として捉えようとしていた」と書く。京の梵鐘の配置そのものが、中世の「コスモロジー」を表現しているという「仮説」について容易に立証できる術もないだろうが、こういった仮説が著者自身の深く知るインドネシアの音環境の興味つきないフィールドワークとも通底しているところに、著者の壮大な音響コスモロジー解明を正統づけるような展望があるのだろう。


Information「四方館 Dance Cafe」


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