ひとりで蚊にくはれてゐる

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<世間虚仮>


<水道の民営化がまねく悲劇>


 些か旧聞に属するが、8月20日の土曜日の夜、偶々だがNHKでウォータークライシスという特番をしていたのを観た。シリーズ第1回は「狙われる水道水」と題されていた。
世界では水道事業の民営化が進められているという事態そのものに驚きを禁じえなかった。
番組では、フィリピンの首都マニラの民営化された水道事業の破綻への推移、アメリカの小さな村がいったん民営化された村の水道をグローバル企業傘下の水道会社から村民の公営事業へと取り戻す運動の経緯、イギリスのサーチャー時代にすべて民営化された水道事業をNPO方式で運営しているウェールズ地方のありかた、の三つのケースを紹介していた。


 悲惨をきわめているのはフィリピン・マニラのケースである。
後進地域や途上国など自国の経済力で水道事業などインフラ整備をできない国は、世界銀行国際通貨基金(IMF)などに融資をうけるわけだが、その場合に貸付条件として水道事業にかかる全コストの回収や水道事業の民営化を要求しており、1200万人が住むというマニラの場合も都市を東西二分して、二つのグローバル化した水企業と契約、水道のインフラ整備から供給まで委託したという。
これが悲劇の始まりである。
水道といえば公共事業しかありえぬという日本に住む我々の常識感覚では考えられないことだが、独立採算でなおかつ利潤をうみだすことを必須とするのだから、料金が高騰するのは当然で、すぐさま庶民の生活を圧迫するほどの事態となる。数年の間に何倍にもはねあがって、取材を受けて話していた輪タクで生計をなす一市民は、水道料金が生活費の2割以上にまでなると嘆いていた。そこで貧しい市民たちは背に腹はかえられないとばかり、こっそり水道管に手製のパイプを取り付けて我が家へ引くという挙にでる。いわゆる水泥棒だが、これがどんどん横行する。供給会社は取締りを強化し、水泥棒探しに躍起となる。見つかれば水は当然止められるが、その上に月収の何倍かの罰金が科せられる。これではイタチごっこだろうが、見つかって御用となった家は悲惨このうえない。テレビでもこのケースを放映していたが見るに忍びないような映像だった。
このような制度環境ではただでさえスラム化している大都市マニラは、さらに加速して大多数の市民がスラムの住民と化すのにさして時間はかからないだろう。


 南米ボリビアでの水道問題に端を発した騒動はさらに悲惨な状況だと各所で伝えられているというのに、世界銀行IMF多国籍企業による水道事業の独占化を推進するような融資制度をあらためる意志はまるでないらしい。後進地域や途上国はすでに巨額の債務を抱えており、世界銀行IMFのいいなりにならざるをえない。2001年11月時点ですでに世界人口約60億人のうち4億人が、民営化された水道事業のもとに供給されており、2015年には10億人に増大すると予想されている、というから恐ろしい事態ではないか。
グローバリズム自由経済、国際的な民営化への流れとは、貧困をなくせないどころか最貧へ極貧へと落とし込み、世界人口の大半を貧困化へ追い落としていく危険を大いに孕んでいるものなのだ。
アメリカ・ブッシュにおもねる小泉流郵政民営化もこの伝でないことを望みたいものだが‥‥。


<参考サイト>
NHK−ウォータークライシス「狙われる水道水」
水の民営化とWTO


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