散らば散れ露分けゆかむ‥‥

Nakahara050918-016-1
Information<四方館Dance Cafe>


−今日の独言−

JulyとAugust
 ユリウス・カエサル(Juliuss Caesar)が暦のJulyにその名を止めたのはつとに知られたことだが、そのカエサルが制定した太陽暦としてのユリウス暦は、ローマで紀元前45年から採用され、以後、より誤差の少ないグレゴリオ暦が制定される16世紀までの長い期間、ヨーロッパ世界に普及していたことになるから、彼の誕生月にその名を残しているのも肯けようというもの。もう一人、カエサルの後継者でローマ帝国の初代皇帝となったオクタヴィアヌス(アウグストゥス=Augustus Caesar,)もAugust=8月にその名を止めるが、そこに面白いエピソードが一つ挿入されていた。それまで8月は小の月で30日だったのを、7月と同じ大の月として31日に変えさせたのだという。理由は勿論、カエサルの7月より自分の月が一日少ないのを嫌ったからで、他の月を一日削って調整したらしい。カエサルの場合は決して自分から望んで名を残したのではなく、彼の死後、贈られたものだが、後塵を拝する権力者というものはその偉大さを競うあまり在世のうちにそれを欲したがる。同じような歴史的事象にも表と裏ほどに実相は異なることに気づかされるのは愉しいことだ。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<秋−21>
 散らば散れ露分けゆかむ萩原や濡れての後の花の形見に   藤原定家


拾遺愚草、上、秋。定家27歳の詠。狩衣の袖をひるがえして颯爽と、花盛りの、露もしとどな萩原を分けて歩む若き公達の姿は、無論自身の投影だが、邦雄曰く、若書きの烈しい息遣いが命令形の初句切れにはじまる快速の調べにも、顕わなくらいだ、と。


 頼まずようつろふ色の秋風にいま本荒の萩の上の露   藤原家隆

壬二集、恋、恋歌あまた詠み侍りし時。藤原俊成を師とし、俊成の子定家と並び称された。「本荒−もとあら−の」は、根元もまばらなの意。そんな萩の露のようにひと思いに散るなら散ってもよい。秋風と共に移ろう人の心などもうあてにはせぬ、とやや捨て鉢に愛想づかしをする。邦雄曰く、技巧的でしかも激情をひしひしと伝えるところ、家隆の特色か、と。


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