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Information<四方館Dance Cafe>

−今日の独言−

ヴェネチアで生まれた文庫本
 塩野七生の「ローマ人の物語」が三年前から文庫化されはじめてすでに23冊まで発刊されているが、その第1冊目「ローマは一日にしてならず」の前書に、こういった文庫形式の書は今から500年も遡るルネサンス期のヴェネチアで生まれ出版されるようになった、と紹介されている。印刷技術を発明したグーテンブルグはドイツ人だったが、この発明がもっともよく活かされ広く普及したのは、ルネサンス発祥の地イタリアであり、とりわけ当時の経済大国であったヴェネチア共和国で企業化され、文字のイタリック体の考案なども経て、持ち運びに苦もない書物の小型本化も進んだという。17世紀初めには現在のようなポケット版が生まれ、またたくまにヨーロッパ各地に広まったというから、我ら東方世界との落差にあらためて驚かされる一事。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<秋−22>

 やどり来し野原の小萩露置きてうつろひゆかむ花の心よ   肖柏

春夢草、秋、野萩。15世紀後半〜16世紀初期の人。宗祇に師事し、和歌・連歌を学ぶ。旅の途次、野原に仮庵を結んで幾日かを過ごしたが、そのあいだ親しんだ小萩の花は、秋の深まりとともにやがて色褪せてしまうかと思い遣る趣向か。邦雄曰く、初句「やどり来し」を、第四句「うつろひゆかむ」が発止と受け、「小萩露置きて」には結句「花の心よ」が響き合う。この呼吸、連歌で緩急を心得た技か、と。


 東雲におきて別れし人よりは久しくとまる竹の葉の露   和泉式部

玉葉集、恋。陰暦八月の頃訪れて来た人が、露置く竹の葉を描いた扇を忘れていったので、暫くしてから、この歌を添えて返してやった、という意の長い詞書があるそうな。邦雄曰く、まことに穿った、巧みな贈歌であり、忘れ扇が故意ならば見事な返歌と言うべきか、と。


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