秋風ものちにこそ聞け‥‥

N-040828-083-1
Information<四方館Dance Cafe>

−今日の独言−

しばらくは塚本邦雄三昧
 図書館から塚本邦雄全集の13巻と14巻の二書を借りてきた。全15巻と別巻からなるこの全集、発行部数もきわめて少ないからだろうが、各巻9975円也ととにかくお高く、私などには容易に手を出せるものではない。そこで図書館の鎮座まします書棚から我が家へお運び願うことにしたのである。全集の13巻は「詞歌美術館」「幻想紀行」「半島−成り剰れるものの悲劇」「花名散策」を、14巻は「定家百首」「新選・小倉百人一首」「藤原俊成・藤原良経」をそれぞれ所収している。そろそろ年の瀬も近づいて慌しさを増してくる世間だが、半ば隠居渡世の我が身は、いましばらく塚本邦雄の世界に浸ることになりそうな気配。


今月の購入本
 内村直之「われら以外の人類−類人からネアンデルタール人まで」朝日選書
 J.タービーシャー「素数に憑かれた人たち−リーマン予想への挑戦」日経BP
 村上春樹アンダーグラウンド講談社文庫
 塩野七生サロメの乳母の話」新潮文庫
 塚本邦雄「珠玉百花選」毎日新聞社
 安東次男「百首通見」ちくま学芸文庫

図書館からの借本
 丸谷才一「新々百人一首」新潮社
 塚本邦雄塚本邦雄全集第13巻 評論Ⅵ」ゆまに書房
 塚本邦雄塚本邦雄全集第14巻 評論Ⅶ」ゆまに書房


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<秋−31>

 秋風ものちにこそ聞け下萩の穂波うちこす夜半の枕は  正徹

草根集、秋、萩声近枕。邦雄曰く、秋風の、今をのみ聞くのなら通例に過ぎぬ。吹き過ぎて後の、遥か彼方の萩の群れに到る頃、さらには彼岸に及ぶ、その行く末まで、耳を澄まして聞くのが詩人の魂であろう。正徹の歌はその辺りまで詠っているような気がする。「夜半の枕は」の不安定で、そのくせ激しい助詞切れの結句は、白い秋吹く風の、幻の風脚まで夜目にまざまざと顕われ、消える、と。


 漁り火の影にも満ちて見ゆめれば波のなかにや秋を過ぐさむ  清原元輔

元輔集、津の国に罷りて、漁りするを見たまうて。平安前期の十世紀、清少納言の父。
邦雄曰く、目前の漁火をよすがに、豪華な蓮火幻想を生んだ。点々と夜の海に映る漁船の火、海の底にまでとどくような遠い華やぎ。「波のなかにや秋を過ぐさむ」は悠々として遥けく、深沈にして華麗である、と。


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