人は来ず誘ふ風だに音絶へて‥‥

Nakahara0509180011

Information<Shihohkan Dance-Café>

−今日の独言− 殻を破る

 無意識にある自分の固有の殻を意識化し、自身を未知の地平へと踏み込ませていくことは、非常に難しいことだし、なにがきっかけとなるかも決まった解がある訳でもない。
昨日の稽古での、ピアノの杉谷君は、偶々か或いはなにか期するところがあったのかは判らないが、その殻を破ったかのような即興演奏を示して、私をおおいに驚かせてくれた。
即興の動き−踊り手−に対して、即興の音−ピアノ演奏−が、もちろん互いに即興であれば当然にあるべきことなのだが、これまでに比して格段の自在さを発揮したように思われた。おそらくは彼自身の音楽的なモティーフや課題意識、従来はそのことに彼なりの拘りがありそれらを追究する意識がつねに動機としてあったと思われるが、その殻がぶっ壊れてしまったかのような飛躍に満ちた演奏ぶりだったのは、特筆に価することかもしれない。
これでひとつ、次回27日のDance-Caféに楽しみが増したというものだ。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<春−54>
 人は来ず誘ふ風だに音絶へて心と庭に散るさくらかな   後二条天皇

後二条院御集、閑庭落花。
邦雄曰く、夢に散る花は古今集の躬恒に、庭に散る花は新古今集の定家に代表され、且つ詠み盡された。「心と庭に散る」桜花を、半眼を開き且つ閉じて視る作者の詩魂。訪れる人の足音は無論、微風さえはたと止んだ白昼のその静寂に、うつつと幻の二様の桜は散りしきる。23歳にして崩御、その短かい生涯に新後撰集以下百余首入集を数える、と。


 風にさぞ散るらむ花の面影の見ぬ色惜しき春の夜の闇   藤原道良女

玉葉集、春下、春夜の心を。
生没年未詳、生年は建長3(1251)年頃か?九条左大臣藤原道良の女、九条道家藤原定家の曾孫にあたる。祖父為家に愛されたらしく、御子左家の主要な所領や歌書を相続。続拾遺集初出、勅撰入集26首。
邦雄曰く、暗黒に散る花を主題としたのは、作者の独特の感覚の冴えであり、これを採ったのは、玉葉集選者の慧眼というべきか。第四句の「見ぬ色惜しき」にも並ならぬ才は歴然。同じ玉葉・春下の「目に近き庭の桜の一木のみ霞のこれる夕暮の色」も非凡、と。


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