ほととぎす寝覚めに声を聞きしより‥‥

Ichibun9811270871

Information 林田鉄のひとり語り<うしろすがたの−山頭火>

−表象の森− Spiritual Art「コルベールの世界」

先日、「DAYS JAPAN」6月号の「慰安婦100人の証言」特集を紹介した。
その巻末には、野生動物と人間との夢幻ともいいうるような交流を描くグレゴリー・コルベールのPhoto世界が、「象と人との交響詩」と題されて特集掲載されてもいた。
現在、東京のお台場で開催されている移動式美術館による展覧会は6月24日までだが、一般前売が1800円と美術鑑賞には些か割高感がするにも係わらず、ずいぶんと人気を博しているようだ。
80年代以降、大型書店の書棚では「精神世界」と名づけられたコーナーにとりどりの書が居並ぶようになって、思わず世相の変転を再認識させられた記憶があるが、カナダ出身の写真家コルベールの世界は、まさに精神世界そのもの、これ以上のピュアなSpiritual Artはあり得まいと思われるほどに、文明の果ての21世紀に生きる人々の、汚濁に満ちた心を根こぎに洗うものがあるといえようか。
死と再生を象徴的に表象するかのように「ashes and snow (灰と雪)」と題されたそのプロジェクトは壮大そのもの、02年のイタリア・ヴェニスでの展示を皮切りに世界中を巡回しているそうだが、とくに05年からは日本人建築家坂茂が設計した移動式の「ノマディック美術館」で、写真と映像によってショーアップされた大規模な展示がなされるようになったという。
さまざまに新聞各紙やマスコミで紹介されているからご存じの方も多かろうが、一度オフシャルホームページ- http://www.ashesandsnow.org/-を覗かれるのを是非にお奨めする。このウェブサイトはRolexがスポンサーとなっているのだが、これだけでコルベールの映像世界を充分に堪能できるほどに充実している。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<夏−60>
 ほととぎす寝覚めに声を聞きしより文目も知らぬものをこそ思へ  大中臣能宣

能宣集、人の歌合し侍るに、よみてと侍れば、子規。
延喜21(921)年−正歴2(991)年、伊勢神宮祭主頼基の子。和歌所寄人となり、万葉集訓点後撰集の選集に携わる。拾遺集初出、勅撰入集120余首、三十六歌仙の一人。
邦雄曰く、「露」に始まって「氷」に終わる四季の十五題、いずれも能宣の長所の明らかな佳作で、殊に「子規」の、物の分別もつかぬばかり思いに耽る趣き、「ねざめ・あやめ」の照応も面白く、季節の菖蒲をも聯想させる。屏風歌の五月に「あやめ草引きかけたればほととぎすねを比べにゃわが宿に鳴く」も見える。絵の賛として見映えのする歌で調べは低い、と。


 白露の玉もて結へる籬(ませ)のうちに光さへそふ常夏の花  高倉院

新古今集、夏、瞿麥露滋(とこなつつゆしげし)といふことを。
邦雄曰く、陰暦6月を常夏月と言うのは、この濃紅の艶やかな五弁花が真盛りになるゆえと伝える。第四句の「光さへそふ」は、常夏の美しさをよく写している。もっとも題詞文字遣いは混同の趣き露わ。高倉院は後鳥羽院の父帝、崩御満二十歳、新古今集に4首入選。常夏の清々しく端正な一首、乱世にあってなお、詩歌を愛した青年帝王の面影髣髴たり、と。


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