五月山弓末振り立てともす火に‥‥

Alti200406

―四方のたより− 大文連

詩文から美術・建築、音楽や演劇、大衆芸能や囲碁・将棋、出版に至るまで、およそ文化活動と呼びうる大阪府下を基盤とする団体を網羅した「大阪文化団体連合会」略して「大文連」は、1978(S53)年6月の結成というから以来30年になろうとしている。
私が当時の事務局長をされていた三好康夫さんから懇切な誘いを受け、四方館の名で会員となったのはいつ頃であったか、結成後の4,5年後か或いはもっと先だったか、どうも記憶も定かではない。
その「大文連」が毎年春に発刊するのが「大阪府文化芸術年鑑」だが、今年もその2007年版が送られてきている。
いわゆる名鑑ものだが、団体・個人の上に、劇場や会館など施設関係にも目配りされ、その紙面は年々充実ぶりを示す。
前段80頁ほどは「大阪における文化の分野別動向−2006年」と題された紙面は、詩・散文・短歌・俳句・川柳・演劇・美術・漫画・写真・建築・洋楽(クラシック)・々(ポヒュラー)・邦楽・洋舞・邦舞・古典芸能・大衆芸能・囲碁・将棋・出版・地域文化・子ども文化、のそれぞれ1年をごく簡潔に総括している。
本来なら、行政サイドが同じ任を果たしていてもおかしくはない話だが、ひとつの任意団体が、それも行政からなんの補助もなく、30年を通してこの年鑑ひとつ発行し続けてきたことをとっても稀少に値しようが、大文連の活動は必ずしもそれだけではない。
例年、テーマをたてて地域文化の現在を考えるシンポジウムを開催しているし、邦楽と邦舞の諸団体がこぞって集結する「花の宴」なるイベントも主催している。「花の宴」は今年も9月2日、門真ルミエールホールであるそうだ。


−今月の購入本−
山本義隆「十六世紀文化革命-2」みすず書房
西尾哲夫アラビアンナイト−文明のはざまに生まれた物語」岩波新書
伊藤茂「上海の舞台」翠書房
吉田修一「悪人」朝日新聞社
高村薫「神の火−上」新潮文庫
高村薫「神の火−下」新潮文庫
水村美苗本格小説−上」新潮文庫
水村美苗本格小説−下」新潮文庫
狩野博幸「目をみはる伊藤若冲の「動植綵絵」」小学館
広河隆一編集「DAYS JAPAN -慰安婦100人の証言−2007/06」ディズジャパン
「ARTISTS JAPAN -18 橋本雅邦」デアゴスティーニ
「ARTISTS JAPAN -19 歌川広重デアゴスティーニ
「ARTISTS JAPAN -20 伊藤若冲デアゴスティーニ
「ARTISTS JAPAN -21 岸田劉生デアゴスティーニ
大阪府文化芸術年鑑 2007年版」大阪文化団体連合会


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<夏−66>
 五月山弓末(ゆずえ)振り立てともす火に鹿やはかなく目を合はすらむ  崇徳院

拾遺集、夏、百首の歌召しける時。
邦雄曰く、まことに不思議な「照射」詠である。自分たちの命を狙い、くらますための松明の炎を遙かに、あるいは深い木陰から認めて、鹿は、もはやこれまでと諦めて瞑目する。その薄い瞼の間から、この世の地獄が見えたことだろう。弱者の立場に身を置きかえての、稀なる悲歌だ。これが第十九代集十四世紀中葉まで、勅撰集に漏れていたこともまた訝しい、と。


 五月雨に藻屑しがらむ隠り江や雲水たかし初瀬川上  十市遠忠

邦雄曰く、動詞の「しがらむ」の連用形が名詞化したのが「柵(しがらみ)」であることを、この歌で卒然と思い出す。その藻屑の絡みついた隠り江の近景からさっと離れて、下句は遙かな山水に目を向け、水墨画の息を呑むようなぼかし技法を言葉で再現する。特に第四句の「雲水たかし」は簡潔であり、言い得た箇所だ。武張った詠風にも、彼の出自が匂い出ている、と。


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