明けぬれば色ぞ分かるる山の端の‥‥

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−世間虚仮− 人を喰った噺

今は昔の高校時代、一幕物の登場人物3人だけの「人を喰った話」という小さな芝居があったのを思い出した。
これは、昨日の朝刊の囲み記事で紹介されていたまことに人を喰った噺。
東京の港区にある米国の大使館が、国有地1万3000?の借地料を十年の間、滞納しつづけた挙げ句、このほどやっと一括で7000万円を財務省サイドへ支払ったというのだが、この一件に、なんとも人を喰ったような裏話が添えられていた。
十年前の98年、財務省が地価高騰に合わせて米国側に借地料の値上げを打診交渉したところ、米国側が待ったをかけた。その言い分がふるっている。「そもそも1896(明治29)年に交わした契約文書に値上げ規定はなく、応じられない」と、百年も前の古文書を引き合いに出して値上げを拒否、この十年改訂に応じず支払を拒否してきたというのだから畏れ入る。
この借地料改定問題がこのほどようやく双方合意をみて、米国は十年分7000万円を一括で支払ったというわけである。
今回の合意で、98〜06年は年間700万円、08年〜12年は同1000万円、13〜27年までは同1500万円となったそうだが、因みに700万円の場合で坪単価を計算してみると1777円/年だから月額にすればなんと148円/坪という超安値なのだから、これにも驚きいるが、僅かな賃料改訂に百年前の契約書まで持ち出して駆け引きされていたとは呆れかえった話。
ついでながら明治の大使館創設以来、今回の改定はわずかに三度目だそうである。


などと記していたら、さらに人を喰ったような噺が飛び出した。
タレント弁護士橋下徹が、二転三転、とうとう大阪府知事選に出馬するという。
先の大阪市長選では、民主党と練合大阪推薦で出た毎日放送の元アナ平松邦夫市長が誕生したばかり。
その選挙速報のTV画面で平松候補のすぐそばで派手にバンザイして顰蹙を買った太田知事が、両親の家や甥のマンションを東京事務所にして賃料を払っていた問題や、「関西企業経営懇談会」主催の会食で高額の講師謝礼を受け取っていたなど、政治とカネのスキャンダルで、四面楚歌となって三選出馬を断念。自・公も民主も急遽候補者探しに奔走するという混迷の度深まる選挙情勢に、軽佻浮薄、ノリの良さと子沢山が売りの橋下が名乗りを挙げてしまった。
いまのところまだ推薦を決めていない自・公も候補者難なれば近々に橋下推薦を決めるだろう。
民主は独自候補を擁立するべく候補者探しをしているようだが、知名度先行の橋下への対抗馬として、そうそう容易く二匹目の泥鰌は見つかるまい。
橋下と同じTV番組「行列ができる法律相談」で売り出した丸山弁護士が、先の参院選自民党比例区に出て国会議員へと転身したが、知事や市長などの地方自治体の首長の任務は、300であれ100であれ多数の議席のなかの一人にすぎぬ議員などとはまるで異なり、責任も重く激務でもある。
そのまんま東が自身の故郷の宮崎県知事となって話題をさらった一年でもあったが、地盤沈下の激しい地方にタレント知事の誕生は一時的な有効さもあろう。
中国なら政都北京に商都上海、嘗て東京オリンピックに対し大阪万博を成らしめた商都の栄華の夢をいまなお捨てきれぬ大阪の、その重い責めある首長の座を、38歳の若輩タレントに果たして託せるものか、関経連経済同友会のお偉方たちもさぞ困惑顔で眺めていることだろう。
生まれてこの方60余年、ずっと大阪市民であり府民でもあるこの身だが、女性スキャンダルで失脚した横山ノック知事の誕生やら膨大な三セク出資の失政で財政破綻の尾を引きつづける大阪市など、一介の府民であること市民であることにどうにも居心地の悪さやら苛立ちが続くこの十数年に、諸々の権利も義務も投げ捨てて、府民返上、市民返上とはいかぬものかなどと背を向けたくなるばかりだ。



<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<春−87>
 明けぬれば色ぞ分かるる山の端の雲と花とのきぬぎぬの空  惟宗光吉

惟宗光吉集、春、花。
邦雄曰く、曙に、咲き白む山頂の桜とその上に漂う横雲は、一夜の夢から醒めて別れねばならぬ。「雲と花」が後朝の別れを惜しむ。さりげない擬人法が優雅に大和絵さながらの光景を描いている。特に第二句の「色ぞ分かるる」が出色だ。この後朝、人事を仄めかせているとまで解するのは邪道。光吉は14世紀半ばの没、和漢の才人で代々の医家、と。


 帰るさのすゑほど遠き山路にもいかが見捨てむ花の夕映え  守覚法親王

北院御室御集、春、桜。
邦雄曰く、どうして見捨てられよう、あの斜陽を浴びて淡紅に照り映える山桜の花群がと、帰路の遠さは思いつつ立ち止まって歎息を久しくする。初句から説き進めるかのねんごろな構成が、作者の個性の表れであろう。同題に「花と見るよそ目ばかりの白雲も払ふはつらき春の山風」もあるが、「花の夕映」なる天来の美しい結句の際やかな効果には及ばぬ、と。


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