ひらふた金で表がへする

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―世間虚仮― 映画「鳥の巣」

小さな旅から帰ってきて、留守中の新聞を読んでいると、北京五輪のメインスタジアム「鳥の巣」ができるまでを描いたというドキュメンタリー映画に関して、坂村健氏が評している一文-「時代の風」-に出会ったが、この話題、紙面一杯に躍る五輪ニュースよりずっと興味湧くものであった。

映画のタイトルは「鳥の巣−北京のヘルツォーク&ド・ムーロン」、ヘルツォーク&ド・ムーロンは、二人の建築家からなるスイスのユニットで、200人以上の所員を抱える世界的な建築設計会社らしく、映画製作はT&C Film、共同製作にスイス・テレヴィジョンが名を連ねており、世界中から大きな注目を集めて成った大プロジェクトたる「鳥の巣」建築の裏舞台から見えてくる「世界の中の中国」という怪奇な物語といえそうだ。

すでに東京と岡山で8月2日から公開されており、逐次全国各地に伝播していく模様で、関西ではこの23日から京都みなみ会館神戸アートビレッジセンターにて、大阪は遅れて9月27日から第七芸術劇場で、とか。


<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

「梅が香の巻」−26

  門しめてだまつてねたる面白さ 

   ひらふた金で表がへする  野坡

次男曰く、閉めて、黙って、寝る、とまで云われては取付く島もない。仕様がないから「表がへ」でもするか、とこれまた開き直って付けている。

人情を物に移して照応を探ったところは運びの常套だが、畳表は新しいのと取替える前に裏返しが利く、つまり二度表替えが出来るわけだ。云うところは、この裏返しの方である。倹約第一をモットーとした越後屋手代ならではの付だ、というところがまず面白いが、無用の大用は裏の活かし方だという考は哲学になる。

釣合う倹約ぶりに「ひろうた金」を持ち出したところも辻褄が合っている。これが「他人の金」「もらつた金」では、義理が絡んで、自由になれまい。
芭蕉が新風の相手に野坡たちを択んだ狙いもわかる気がする、と。


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