月夜々々に明渡る月

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Information−四方館 DANCE CAFE –「Reding –赤する-」

―表象の森― あか色々

・紅-べに、くれない-
紅花はエジプト原産のアザミに似たキク科の植物で、「紅」はその花弁から抽出した紅色素-カーサミン-で染めた鮮やかな色。紅花による紅染は褪色しやすいため、鬱金黄檗など黄色系の染料で下染した後に染色されることが多い。国内産地は山形県最上地方が有名だが、収量は少なく金に匹敵するほど高価だったため、高貴な人のみがこの色の着用を許された。紅花だけで染めた色を紅色、真紅あるいは深紅などという。
・猩々緋-しょうじょうひ-

緋のなかでも特に強い調子の黄味がかった朱色。猩々はオランウータンともされるが、また中国の猿に似た霊獣ともされ、その動物の生き血で染めたという伝説がある。わが国では能に登場する「猩々」の衣装のイメージでもあり、赤毛、赤面、赤装束から由来するという説も。古くから用いられた色で、この猩々緋で染めた羅紗や天鵞絨-ビロード-は武将たちの陣羽織に仕立てられ、戦の場で艶やかな意匠が競われた。

・紅緋-べにひ-
猩々緋とともに鮮やかな緋色に使われる色名で、紅花と鬱金黄檗、支子-くちなし-を用いて黄味のある赤。古代、「緋」は茜を灰汁媒染-あくばいせん-で染めた赤をさし「あけ」と呼ばれ、女官の緋袴の色も、実際はこの紅緋が用いられた。

・照柿-てりがき-
熟した柿の実からきた色名で、濃い赤味の橙色をいう。「柿」は平安時代から用いられている色名だが、江戸時代には赤味の橙色をさす代表的な色名として使われた。
他に、熟した柿の色に「紅柿」、淡い色では「洗柿-あらいがき-」「洒落柿」があり、「薄柿」や「水柿」などは明るい橙色、濃くなって赤系によったものに「凝柿-こりがき-」「黒柿」がある。

・紅柄色/弁柄色-べにがら/べんがら-
顔料の紅柄の色名からきた赤身の褐色で、弁柄とも。名前の由来は東インドの地名「ベンガラ」からきている。その地で良質の赤褐色の酸化第二鉄が産出され、この産地名-ポルトガル語-が顔料名となった。
江戸時代から弁柄に柿渋を加えた顔料が、町家などの壁や格子戸に塗られ、弁柄格子と呼ばれてきた。

・黄丹-おうたん、おうに-
もとは顔料の「鉛丹」の別名で、紅花と支子で染めた赤味を帯びた橙色。中国より伝来した色名だが、高貴の色とされ、色彩の序列は紫の上に置かれ、着用を親王や皇族に限られ禁色の一つとされてきた。わが国では8世紀以来現在まで、皇太子の正式服色として用いられる。
  −平凡社刊「日本の色」より


<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

「花見の巻」−30

  憎れていらぬ躍の肝を煎  

   月夜々々に明渡る月  曲水

次男曰く、二ノ折の表の端句-十二句目-を、躍に寄せて月の座としている。定座は十一句目で、うごかすことは間々あるが、特別の趣向でもないかぎり端に雫すことはまずない。

作りは前句の人情に景を添えた軽い遣句の体で、月夜月夜と踊り続けてついに有明の月を見る候にまで及んだ-片や時分片や天相-と云いたいらしいが、「月夜」と「月」の差合が誰しも気になるところだ。

「夜ごと夜ごとに明渡る月」、「月夜々々に明渡る比-ころ-」ではいけないのか。と考えたところで気がつく。「憎れていらぬ躍の肝を煎」は要らざるお節介で、云うなれば屋上屋を架すたぐいの行為だ。差合を承知のうえで、「月夜」に「月」を被せた手口は、まずそこを読取って盆踊り頃踊り明かす人情との釣合としたものらしい。

加えて、端句の月を強いられ、曲水としては出し遅れた不手際を繕うしかなかった、という事情がある。破れかぶれと云うべきか、活路と云うべきか、珍しい重ねの工夫はそこに生れた、と。

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