はつち坊主を上へあがらす

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―表象の森― NO NAME

弱冠19歳の新人漫画作家が誕生、その名は大島千春-Pen name-、小学館の新人コミック大賞を受賞したという彼女の作品「 NO NAME」が、週刊BIG COMICスピリッツ7月20日号に掲載されている。

漫画・劇画の類で記憶に残ると云えば、古くは白戸三平の「忍者武芸帖」や「カムイ伝」、少し時代が降って山岸涼子の「日出処天子」くらいで、めずらしく最近になって「へうげもの」に食指を動かしてみたのは、直木賞の「利休にたずねよ」を読んだ所為で、20年このかたとんと縁なき衆生が、突拍子もなくなぜこの話題かといえば、このデビュー少女、メル友G「市岡芋づる」メンバーのお嬢さんで、グループ内でひとしきり話題になったからだ。

近所の本屋で買い求めるのさえいささか気恥ずかしい思いをしたものだが、近頃のコミック誌はいざ読む段においてもなかなかすんなりと誌面に入っていきづらいものがあった。
思春期の揺らぎに満ちた少女らしいストーリィも、その心理の揺らぎを感じさせるような画面のタッチも、私のようなoldにはちょっぴり遠い肌合いなのは致し方あるまい。
作品の終りに、「くやしくて、さみしくて、かなしくて、うらやましくて、それでいて、いとおしい」と言葉を連ね、「私はこの感情に、ずっと名前が、つけられずにいる。」と結んでいる。

ここで「NO NAME」のタイトルがあらためてクローズアップされるわけだが、ウィットに富んだ洒落たこの名付けに、その想像力の飛躍に、些か不自然というか違和を感じながら、ふと「NO NAME」でネット検索してみれば、なんと近頃流行りの、パリ発女性用スニーカーのブランド名ではないか。「無印良品」にも似た発想だが、名前のないブランドと逆手を採ったネーミングが功を奏して、そのファッション性とともにブームを呼んでいるものとみえるが、
成程、こういった現象が背景にあってのことかと、恥ずかしながらようやく腑に落ちたしだいである。

―四方のたより―今日のYou Tube-vol.21-
連句的宇宙by四方館「KASANE-襲-」のScene.3


<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

空豆の巻」−20

  不届な隣と中のわるうなり  

   はつち坊主を上へあがらす  利牛

次男曰く、同じ人の行為を趣向とした、前句の付伸しである。「はつち坊主」は鉢坊主の訛音、托鉢僧のこと。立腹の赴くところ、たまたま通りかかった乞食坊主を呼入れて上へあげたと云っているのだが、ハッチという音に捨鉢、すてっぱちの感情をうまく取込み、酔狂で無意味な行為の滑稽を描いている。「不届」は男言葉、不仲になるのは男親と詠みきれなかった諸家は当然この句の景気も見落としている。

此句のいま一つの見どころは、先の恋のはこびが横川の僧都らしき有情の学識僧を狂言廻しに遣っていたのに対応して、名もない乞食坊主を持出したところで、これは作者たちの計算された小道具だろう。但し、利牛がどこの馬の骨ともしれぬ鉢坊主では恋の機微など話しても判らぬと考えているのか、それとも乞食坊主じつは有徳の高僧かもしれぬと眺めているのか、その点はわからぬ。その未知数の面白さを含みとして余情を次句に委せている。愚痴ばなしの相手とばかり読んでいるとそいうことも見えてこない、と。

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