着のまゝにすくんでねれば汗をかき

0509rehea_066

―世間虚仮― シャープ新工場とシベリア抑留

今夕刊によれば、府内の市民団体「シャープ立地への公金支出をただす会」が、大阪府堺市に対し、建設中のシャープ新工場への補助金や税優遇措置が違法として、差し止めを求める訴えを大阪地裁に起こしたという。
以前から問題にはなっていたのは承知していたが、とうとう訴訟にいたったわけだ。

訴状によれば、大阪府はシャープや関連企業の進出に伴い総額244億円の補助金を、堺市は固定資産税などを10年間、約8割減免するとしており、この額およそ245億円、加えて、周辺に路面電車を285億円かけて敷設することになっている。これほどの補助金や税優遇などが、はたして費用対効果において適正なものといえるのか、その判断がついに司法に委ねられることになった。

もう一つ眼を惹いた記事が、第二次大戦でシベリアに抑留された人々70万人の資料がモスクワの公文書館で保管されていたというもの。
記事によれば、厚労省では日本人の旧ソ連抑留者を約56万人-うち死者約53,000人-と推定されており、発見された資料の分析が進めば変わってくる可能性もあると。

これまでのところ、推定死亡者約53,000人に対し、従来ロシア側から提供されていた死亡者名簿は約41,000人で、しかもこれらを照合しても特定できない不明数が約21000人もあるそうだが、さしあたりこの不明分から300人を抽出し、新資料との照合をロシア側に依頼した結果、25人分を確認できたという話だ。

遙か戦後65年を経てのこの話題、抑留されたまま彼の地で散り逝きし多くの死霊たちが、なお闇の中に埋もれたままなのだ。

―表象の森― 新境地「耳なし芳一

一昨夜は7月恒例の琵琶五人の会。年に一度の会もなんと重ね重ねて20回目だという。
今年の演目は、「耳なし芳一」-加藤司水-、「土蜘蛛」-奥村旭翠-、「戻り橋」-杭東詠水-、「羅生門」-竹本旭将-、「茨木」-中野淀水-と、いわゆる琵琶曲らしい鬼や怪奇の世界を揃えた。

なかで加藤司水の「耳なし芳一」はめずらしく創作ものだったが、これはある意味で彼の新境地を拓くものであったろう。伝承や古型を重んじる世界とはいえ、この人はこういう方向で行くべしという思いを強くした。

琵琶世界を詳しく知るものではないが、この五人のうち中野、杭東、加藤の三者は、ともに永田錦心が始めた薩摩琵琶の一派、錦心流琵琶全国一水会の流れ。そのなかで彼は些か異色とも云える存在であろう。

これは他人聞きで正確を期せないが、先年、西宮支部を統べていた楊師から後継を望まれていたが、加藤司水はこれを固辞したと伝え聞く。琵琶だけでなく尺八や三味線、あるいはさまざまな民族楽器などをも奏する多趣味多芸の彼のこと、後継となっては琵琶一筋へと強いられもしようと、彼流の名より実を取ったものと思われる。

彼の「耳なし芳一」は、その選択によって到達しえた、いい意味での開き直りから、自ずと生まれたものではなかったか。

<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

空豆の巻」−23

   置わすれたるかねを尋ぬる  

  着のまゝにすくんでねれば汗をかき  利牛

次男曰く、置忘れに懲りて、着のまま財布をしっかり腹に巻きつけておく、と作っている。
前句を身の縮む思と読んだか、それとも気の弛みと読んだか、いずれにしても「すくんで寝る」がことばの呼応だが、前者なら話の付伸し、後者なら向付の一体になる。

「汗をかき」は句仕立のうえでのあしらいで、いろいろに置換のきくところだが-この「汗」は季語ではない-、向付と読めば忘れ金を探す冷汗とは別の汗だと軽口をたたく気分が現れる。この方が面白かろう。

旅用らしい滑稽の作りは両替商に相応しい日常の心構えで、これも「炭俵」衆ならではの思付である、と。

人気ブログランキングへ −読まれたあとは、1click−