てふてふうらうら天へ昇るか

ichibun98-1127-007-1
 「Ichi-Bun98-Santouka」より


<風聞往来>


<訃報二題−塚本邦雄さんと倉橋由美子さん>


稀少な存在感を示していた作家の訃報が相次いだ。
塚本邦雄さん−6月9日、享年84歳。
http://www.mainichi-msn.co.jp/search/html/news/2005/06/10/20050610ddm041040129000c.html
倉橋由美子さん−6月10日、享年69歳。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/fu/news/20050614k0000m060106000c.html


塚本邦雄氏は戦後の短歌界を牽引した前衛歌人と評された。
同じく戦後を代表する歌人岡井隆氏は新聞誌上で「戦後短歌史において最も偉大な歌人を失った。戦後の第二芸術論で衰弱しかかった歌壇に、斬新で超現実的なモダニズムの手法を大胆に取り入れた。その手法は 現在の若い歌人に絶大な影響を及ぼした。寺山修司とともに前衛短歌運動の盟友だっただけに、寂寥(せきりょう)感は大きい。」と追悼している。
「500人を相手にしていれば十分」といっていたという塚本邦雄氏の覚悟には私のような者もしたたかに胸を打たれる。
彼の作品に初めて接したのは「半島−成り剰れるものの悲劇」という散文だったと記憶する。
旧仮名遣いと旧漢字で表記された詩情あふれる文体は能登の風土と故事を幻想の半島として見事に甦らせていたように思う。
今、手許にあるのは「源氏五十四帖題詠」。
その巻末近くに、紫式部の歌、
「年暮れてわが世ふけゆく風の音に心の中(うち)のすさまじきかな」
を引いて、和泉式部
「夢にだに見てあかしつる暁の恋こそ恋の限りなれけれ」
に匹敵するものだと評している。


倉橋由美子氏には反リアリズムとか反小説の形容が冠せられるが、方法意識に貫かれた寓意や怪奇に満ちた虚構世界はその固有性において鮮やかな存在感を示していたとみえる。
代表作とされる「アマノン国往還記」は残念ながらいまだ読んでいないが、
よく知られた「大人のための残酷童話」や「老人のための残酷童話」「よもつひらさか往還」などが手許に残る。
訃報記事によれば、彼女が5月に訳しおえたばかりのサン・テグジュペリの「星の王子さま」が今月末にも刊行予定とか。
星の王子さま」の新訳出版については、600万部に達するという岩波版の翻訳出版権が消滅したのを機に他の出版各社が競って新訳を続々登場させる、とのニュースもある。
http://book.asahi.com/news/TKY200505260088.html


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