跡もなき庭の浅茅に結ぼほれ‥‥

N-040828-082-1
Information<四方館Dance Cafe>

−今日の独言−
脳のルビコン

 われわれホモ・サピエンスの起源を探るここ数十年来の考古学はアフリカでの発掘調査を中心にずいぶん進んでいることは、時にニュースで伝えらたりする限りにおいて享受してきたものの、およそその手の知識も思考回路も乏しい私などには、それらの断片を手繰り寄せて全体像を把握することなどできる筈もなく、その努力もついぞしてこなかったが、先月末の新聞書評で内村直之著「われら以外の人類」が紹介されているのに触れ、現時点での総括的な知見を得られるものと思い手にしてみた。著者は朝日新聞社の科学医療部記者で「科学朝日」編集部なども経てきており、その職業柄か、猿人たちから多様なホモ属の系譜まで、わかりやすくまとめられており入門書としては良書といえるだろう。
 ここでわれわれが意外と知らないでいる事実をひとつ紹介しよう。ヒトの脳はとんでもなく贅沢な器官で、高カロリーのブドウ糖しか栄養にせず、体重の2%程度しか占めていないのに、消費するエネルギーは20%にもなるという。さらに新生児にいたっては、身体をあまり動かせないという事情もあるが、60%のエネルギーを脳で消費するというのだ。それほどにわれわれは脳化した動物だという訳だが、その脳の進化のためには、効率的にカロリーを補給できる「肉食」が不可欠条件だったし、数あるホモ属たちのなかで「脳のルビコン」を越え出るのに成功したのがホモ・サピエンスだった、と本書は教えてくれる。勿論、長いあいだの狩猟生活から、やがて農耕主体の定住生活へと変わって現在にいたるわれわれには、すでに肉食は絶対条件ではなくなっているが。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<秋−37>

 跡もなき庭の浅茅に結ぼほれ露の底なる松虫の声  式子内親王

新古今集、秋、百首歌中に。平安末期、後白河院の皇女、以仁王は同母弟。邦雄曰く、第四句「露の底なる」と、魂に透き入るかの調べにて、松虫の音は際立って顕(た)つ。作者の百首歌第一には「月のすむ草の庵を露もれば軒にあらそふ松虫の声」があり、眺めはにぎやかで非凡ながら、「露の底」には及ばない、と。


 ゆく蛍雲の上までいぬべくは秋風吹くと雁に告げこせ  在原業平

後撰集、秋、題知らず。伊勢物語第四十五段にて、男に恋焦がれ、忍びに忍んでついに儚くなった娘のもとへとその男が駆けつけて、死者への追悼をする件りに添えられた歌である。邦雄曰く、女の死に直接かかわらず、仄かに鎮魂の調べを伝える、と。


⇒⇒⇒ この記事を読まれた方は此処をクリック。