月影は森の梢にかたぶきて‥‥

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Information−Aliti Buyoh Festival 2006−

−今日の独言− 縄文像を新しく

一昨年2月にガンで死去した網野善彦らを軸に編まれた講談社「日本の歴史」は00巻から25巻まで全26巻の監修だが、網野善彦自らが著した「日本とは何か」00巻はこの類いの出版では10万部を優に超えるという異例のベストセラーとなっていたという。ちなみに私もこの巻だけは発刊直後に購入し読んでいる。
ところで、このシリーズが刊行されたのは’99年から’02年にかけてだが、折りしも’00年(H12)11月に発覚した神の手事件すなわち藤村新一による長年にわたる一連の石器捏造騒動が、考古学者や歴史家ばかりかマスコミや世間をも震撼させ、考古学上の知見を根底から洗い直さざるえない危機に見舞われた時期に重なった所為で、既に発刊されていた01巻「縄文の生活誌」はこの捏造事件のあおりで全面的に書き換えざるを得なくなり、初版差し替えとしてその改訂版が発刊されるのは’02年11月に至っているという。
読み進んでいくにつけ、この20〜30年の遺跡発掘調査による知の集積で、原始の日本列島、縄文期の時代像もこんなに変容してきたのかと驚嘆しきり。
そういえば’80年頃だったか、当時の高校向けの世界史と日本史の教科書をわざわざ取り寄せて読んでみたことがある。その時も私自身の高校時代との20年ほどの時差のなかで、その内容の変化にずいぶん驚かされもし、古い知識の棚卸しをさせられるようなものだったが、今回の場合は棚卸しや煤払いどころか、埃だらけの古い縄文像をまったく新しく作り替えねばならないようである。


図書館からの借本
・岡村道雄・他「縄文の生活誌 日本の歴史−01」講談社
・寺沢薫・他「王権誕生 日本の歴史−02」講談社
・中川千春「詩人臨終大全」未知谷
加藤楸邨「一茶秀句」春秋社 −昨年10月につづいて再び。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<冬−25>
 月影は森の梢にかたぶきて薄雪白しありあけの庭  永福門院

玉葉集、冬、冬の御歌の中に。
邦雄曰く、こまやかな遠近法で、彼方の森の漆黒の樹影から、眼前の庭の砂と植込みをうっすらと覆う雪まで、黒白を駆使したところ、作者の技量の見せどころだろう。薄雪の微光を放つ趣きは玉葉集歌風の一典型、と。


 吹く風に散りかひくもる冬の夜の月の桂の花の白雪  後二条天皇

後二条院御集、冬、月前雪。
弘安8年(1285)−徳治3年(1308)、後宇多院第一皇子で後醍醐天皇の異母兄。正安3年(1301)、両統迭立により践祚・即位、時に17歳。徳治3年(1308)、病により崩御、24歳。新後撰集初出。勅撰入集100首。
邦雄曰く、上句は伊勢物語第97段の「桜花散りかひ曇れ」を写したのであろう。下句は「雪月花」を14音に集約した感あり、桜が月下の桂の花になっただけ、さらに神韻縹渺の趣きが加わる、と。


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