見てのみぞおどろかれぬる‥‥

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−今日の独言− 象が来た日

一説に今日は象の日だという。時は江戸期、徳川吉宗享保14(1729)年のこの日、交趾国(現ベトナム)から日本に渡来した象が中御門天皇に披露され、さらには江戸へと運ばれ、翌5月27日には将軍吉宗に献上披露されたというが、日本に初めて象がやってきたのはもっと時代を遡る筈だとググッてみると、「はじめて象が来た町」と名乗りを上げているサイトがあった。若狭湾の小浜である。応永15(1408)年というから300年以上遡るが、南蛮船に乗ってやってきた象は京都へと運ばれ、室町幕府の将軍義持の閲覧に供されたらしい。文献もあるということだから事実だろう。
それから以後も、天正2(1574)年には明国の船で博多へ上陸。翌天正3(1575)年にも同じく明国の船で豊後白杵の浦に。次に慶長7(1602)年に徳川家康へ献上されたという象は、吉宗の時と同様、交趾国からだったというから、享保の時はなんと5回目だった訳だ。
悉達多(釈迦)の誕生説話でも、母の摩耶夫人が胎内に入る夢を見たのは白象だし、仏教絵画に出てくる帝釈天たちが乗っているのも白象だから、濃灰色の実際の象を見た当時の人々はその巨体に驚きつつもさぞ面食らったことだろう。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<春−58>
 憂しや憂し花匂ふ枝(え)に風かよひ散り来て人の言問ひはせず   頓阿

続草庵和歌集、物名。
正応2(1289)年−応安5(1372)年、俗名二階堂貞宗。二階堂家は藤原南家の末裔、代々鎌倉幕府の執事を務めた。二条為世から古今伝授を受けたと伝えられる。続千載集初出、勅撰入集は49首。
邦雄曰く、楽器尽くしの歌で、一首の中に「笙・笛・篳篥(ひちりき)・琴・琵琶」の五種が詠み込まれている。古今集以来、勅撰集には欠かせぬ言語遊戯だが、この歌、新拾遺集では「詠み人知らず」で入選、家集では管弦尽くしを含めて20首が見える、と。


 見てのみぞおどろかれぬる鳥羽玉の夢かと思ひし春の残れる   源実朝

金塊和歌集、春、屏風に春の気色を絵かきたる所を夏見て詠める。
鳥羽玉(ぬばたま)の−黒や夜、髪、またその複合語や関連語に掛かる枕詞、「むばたまの」に同じ。
邦雄曰く、息を詰めるかの二句切れ、結句また連体止めを繰り返し、低い歎声を洩らす第三・四・五句。金塊集中、悲運の天才実朝の個性横溢する、春を偲ぶ作品。しかも詞書通り、一種奇妙ともいえる動因がある、と。

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