をりをりのその笛竹の音絶えて‥‥

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−表象の森− 「日本仏教史」を読む

思想史としてのアプローチと副題された末木文美士「日本仏教史」(新潮文庫)は、土着化した日本独自の仏教を思想史的に概括したものとして、なかなかの好著とみえる。
1949年生れの著者は現在東京大学大学院人文社会系研究科教授にある。本書の初版は1992(平成4)年、1996(平成8)年に文庫版化された。


同じ仏教でもインドとも中国とも異なる日本の仏教は、どのような変化を遂げて成立したのだろうか。本書では6世紀中葉に伝来して以来、聖徳太子最澄空海明恵親鸞道元日蓮など数々の俊英・名僧たちによって解釈・修正が加えられ、時々の政争や時代状況を乗り越えつつ変貌していった日本仏教の本質を検証。それは我々日本人の思想の核を探る旅」と解説されるように、近世江戸期、近代明治までをまがりなりにも射程に収めた日本的仏教の「歴史」の入門書であるが、その時代々々の多様な変容を通して、神道儒教とも渾然と融和しつつ展開してきた日本的仏教の裾野の広さをよく把握しえる一書である。


今月の購入本
 金子光晴「絶望の精神史」 講談社文芸文庫
 金子光晴「詩人−金子光晴自伝」 講談社文芸文庫
 牧羊子金子光晴と森三千代」 中公文庫
 梅原猛「京都発見(六)ものがたりの面影」 新潮社

図書館からの借本
 ドナ・W・クロス「女教皇ヨハンナ−下」草思社
 山本幸司「頼朝の天下草創−日本の歴史08」 講談社
 筧雅博「蒙古襲来と徳政令−日本の歴史10」 講談社
 五来重円空と木喰」 淡交社
 長谷川公成・監修「円空−慈悲と魂の芸術展」 朝日新聞社
 辻惟雄・編「北斎の奇想−浮世絵ギャラリー」 小学館
 ジョルジュ・タート「十字軍−ヨーロッパとイスラム−対立の原点」 創元社


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<雑−25>
 榊葉のさらでも深く思ひしを神をばかけて託(カコ)たざらなむ  藤原顕綱
顕綱朝臣集。
邦雄曰く、家集には恋の趣ある歌群の中に紛れて、この一首が見える。榊は神の縁語で、意は、熱愛したことの決して歎きはすまいとの、潔い断念であろう。別に、「斎院に人々あまた参りて詠むに」の詞書で、「神垣にさす榊葉の木綿(ユフ)よりも花に心をかくる春かな」他、榊葉の歌二首があり、顕綱の好みであろう。特殊な言語感覚の持ち主として記憶に値する、と。


 をりをりのその笛竹の音絶えてすさびしことのゆくえ知られず  建礼門院右京大夫

建礼門院右京大夫集。
邦雄曰く、ひめやかに暗く、縷々としてあはれな建礼門院右京大夫集の中で、この「笛竹の音絶えて」の一首は、一瞬眼を瞠らせるような、気魄と語気をもって他と分つ。院の側近が笛を吹き、作者がそれに和して琴を奏でた栄華の日の思い出。結句の烈しさは、今はすべて夢と諦め、敢えて涙は見せぬという心ばえを映したか。治承2(1178)年頃の物語、と。


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