蓬生の末葉の露の消えかへり‥‥

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−表象の森− それでも帰りたい

 「それでも帰りたい」、昨日付、毎日新聞の一面見出し。
20年を越えてつづいたスーダン南北内戦による破壊は、約400万人の家を奪ったという。記事はケニア北部のカクマキャンプに暮らす9万余の難民たちの実態を伝える。
昨年1月の和平合意で、国外に逃げた難民や国内避難民の帰還が始まったが、家族の離散やインフラ破壊の影響は深刻だという。なにもかも破壊され、疫病の流行にもなすすべがないという故郷に、「それでも帰りたい」との思いだけはつのる。


 以下は2004年時点の数値のようだが、
世界で約4,000万人が、武力紛争により家を追われて生活しており、
03年だけでも、新たに640万人が難民または避難民となったという。
安全を求めて国境を越えた難民が1,190万人、
自国内で避難している国内避難民が2,360万人。
ほとんどの国が難民を受け入れてはいるが、そのなかには多くの最貧国が含まれているという、坩堝のような実態の理不尽さには、言葉を失うばかりだ。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<恋−38>
 筑波嶺の新桑繭の衣はあれど君が御衣しあやに着欲しも   作者不詳

万葉集、巻十四、東歌、常陸国の歌。
筑波嶺(ツクバネ)−常陸国筑波山のこと、男体山と女体山の二つの峰。
新桑繭(ニイグワマヨ)−新しく取れた繭、今年の繭。 御衣(ミケシ)−「けし」は「着(ケ)す」連用形の名詞化。衣服の尊敬語。
邦雄曰く、筑波嶺は女男の二峰を持ち、春秋の歌垣で知られていた。繭紬の織りたての香が漂うように、初々しく健やかな調べ。あなたの衣が着たいとは、なんと素朴な、大胆な愛の告白か、と。


 蓬生の末葉の露の消えかへりなほこの世にと待たむものかは   藤原良経

六百番歌合、恋、待恋。
邦雄曰く、恋歌のほとんどは遂げ得ぬ愛の悲嘆で占められ、六百番歌合・恋五十題にひしめく六百首もまたこの例に漏れないが、惻々として魂を冷やすかの趣、この蓬生を超える作は少ない。逢うのはもはや死後と、暗に決意したこの調べの凄まじさ。第三句「消えかへり」の末細る調べは天来とも言うべく、絶妙、と。


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