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−四方のたより− 村上徹木工作品展

今春の「日本伝統工芸近畿展」で見事、近畿賞を獲た村上徹君が、地元の京都で作品展を開いている。
会期は11/14(火)から12/10(日)のほぼ1ヶ月、場所は三条木屋町近く、姉小路通河原町東入ル、ギャラリーなかむら。(開館時間AM11:00−19:00、Tel075-231-6632)

村上君は高校時代の2年後輩(大阪府市岡高校17期)、高校時代もそれ以後もとくに縁があったわけではないが、‘98(H10)年の辻正宏追悼の取り組みが機縁となって知己を得た。彼は若い頃の事故でか片腕を失っており、隻腕の木工芸作家である。むしろ身体的なハンデを負ったことが、一条の道へと突き進む不屈の気力を培っているのかと思われる。
手法はあくまで刳抜き、そして漆で拭いて仕上げるという伝統手法だが、作品は木漆器からモダンなクラフトものまで幅ひろい。一作々々にどこまでも根気と繊細さとを要する作業だろうが、彼の生み出した作品の、その気品に満ちた静謐な佇まいは、観る者の心を洗う感がある。刳抜きと漆拭きという作業の、生み出すものと生み出されるものとの長い々々対話の時間が、彼の内なる魂を細みに細みにと削っていく。そんな時間の厚みが観る者にひしひしと伝わってくる作品たちが、きっと待ってくれているにちがいない。

<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<秋−94>
 鳰(ニホ)の海や月の光のうつろへば波の花にも秋は見えけり  藤原家隆

新古今集、秋上、和歌所歌合に、湖辺月といふことを。
邦雄曰く、琵琶湖の水面に零(フ)る月光、その冷やかな光が映(ウツ)ろへば白々と咲く波の花も、花野のそれのごとく秋の趣。古今・秋下の文屋康秀「草も木も色変れどもわたつうみの波の花にぞ秋なかりける」を、秋のままで本歌取りした作。「うつろへば」、すなわち月光が初夜から後夜に変る頃と考えてもまたひとしおの味であろう。結句は冗句に似て調べを引きしめた、と。

 曇りなくて忍びはつべき契りかはそらおそろしき月の光に  亀山院

亀山院御集、詠十首和歌、月顕忍恋。
邦雄曰く、忍恋のあらわれる憂慮を、月光の隈なさにたぐえての歎きは、「契りかは」の底籠る反語表現に集約される。重ねて、「そらおそろしき」は、「なんとなく怖ろしい」を意味すると同時に、月光あまねき「空」をかねている。亀山院御製は勅撰の後拾遺集に最も多く20首、太上天皇名で入選を見た。父帝後嵯峨院譲りの技巧的な佳品が数多見える、と。


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