儚しやさても幾夜か行く水に‥‥

ザ・ペニンシュラ・クエスチョン―朝鮮半島第二次核危機

ザ・ペニンシュラ・クエスチョン―朝鮮半島第二次核危機

−表象の森− ザ・ペニンシュラ・クエスチョン

今朝も、暗礁に乗りあげたかと思えば、北朝鮮の老獪な豹変外交で一転、ギリギリの攻防が演じられていると、六者協議の模様が伝えられている。
いわゆるインサイド・ストーリィものなどはとんと読まない私だが、朝日新聞のコラムニスト船橋洋一が、各国政策担当者への膨大なインタビュー記録を駆使して、小泉訪朝と六者協議の内幕、北朝鮮をめぐる日・米・韓・中・ロの外交駆け引きの全容を明らかにした労作、本文だけで742頁に及ぶ大部の書を、過ぎたるほどに腹も膨れて些か辟易しつつもなんとか読みおおせたのは、本書が、朝鮮半島の第二次核危機について、関係各国の国内情勢にまで踏み込んで多方面からよく論じえているからだろう。
本書は、2002年9月の小泉純一郎首相訪朝に至る日朝外交と翌 10月のジェームズ・ケリー米国務次官補訪朝を皮切りに悪化した核開発をめぐる朝鮮半島情勢について論じたものだが、第二次核危機をめぐる各国の政策決定過程について、実に詳細にわたって記述されている。
この春には英語版が米国のブルッキングズ研究所から出版される予定だともいう本書は、凡百のインサイドものを超えて、朝鮮半島問題の研究や第二次核危機を論じるには、欠かすことのできない重要文献の一つとなるだろう。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<冬−51>
 鳴きて行く荒磯千鳥濡れ濡れず翼の波に結ぼほるらむ  肖柏

春夢集、上、詠百首和歌、冬十五首、磯千鳥。
邦雄曰く、磯千鳥の濡れそぼつ姿が、緩徐調で巧みに描かれている。特に第三句以下が苦心の技法で、濡れみ濡れずみよろよろと「千鳥足」で走り去る鳥が「翼の波に」とは、大胆で細心な修辞であった。この百首は家集巻頭、次の百首の「暁千鳥」は、「さ夜千鳥有明の月を遠妻の片江の浦に侘びつつや鳴く」。連句的な上下句照応の妙は荒磯千鳥が勝ろう、と。


 儚しやさても幾夜か行く水に数かきわぶる鴛のひとり寝  飛鳥井雅経

新古今集、冬、五十首歌奉りし時。
邦雄曰く、蹴鞠と和歌の名門飛鳥井家始祖の、家集明日香井集きっての秀作であり、新古今集・冬に燦然と光を放つ一首。その冷ややかに細やかに、煌めきつつ頸えつつ、アラベスクを描く調べは、もはや工芸品の黒漆螺鈿細工の趣さえ感じさせてくれる。鴛(オシ)は雄、鴦は雌、あわれ一羽はぐれて水の上を行きつ戻りつ、夜毎眠りもやらぬさま。初の感嘆句、絶妙の味、と。


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