さらでだにあやしきほどの夕暮に‥‥

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−世間虚仮− パキスタンの高速道路崩落

3日前の新聞だったか、小さな囲み記事だが、パキスタンのカラチでこの8月に開通したばかりの高速道路が崩落するという事故が報じられていた。
記事の伝えるところでは、少なくとも5人が死亡、10人以上が重傷で、なお生き埋めになった人々が数十人おり、犠牲者はさらに増大するもよう。
地震などの自然災害によるものではない。工事上のなんらかの重大な欠陥から起きた崩落であり、100%人災の大事故だ。
パキスタンといえばインド国境近くのカシミール地方で9万人とも伝えられる死者を出した2年前の大地震が記憶に新しい。
その傷もまだ癒えぬ多くの被災民を抱え、災害復旧も遠く道半ばであろうし、また長びく紛争で経済も人々の暮しも疲弊するなかで、近代化促進のため全国に高速道路網の整備を進めようとする為政者たちへ、学者や識者たちからの批判が集中しているともいう、そんな折も折の欠陥工事による崩落事故とあってはどうにも救いがたいかぎりだが、人々はどんな思いでこのお粗末この上ない人災を見つめていることだろう。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<秋−105>
 おほかたに秋の寝覚のつゆけくはまた誰が袖にありあけの月  二条院讃岐

古今集、秋上、経房卿家歌合に、暁月の心をよめる。
邦雄曰く、建久6(1195)年正月、讃岐も五十路に入った頃の作品か。父頼政の討死も、既に二昔近く前のこと。源平の盛衰を眺めてきた女流の歌心は陰翳に富む。人はおほよそ悲しみの秋、夜明けは涙に濡れる。われのみならず、他の誰彼の、袖の涙に映る味爽の月。溢れる思いを切り捨てて突然結句を歌い終わる。その重い体言止めこそ作者の心であろう、と。


 さらでだにあやしきほどの夕暮に萩吹く風の音ぞきこゆる  斎宮女御徽子

拾遺集、秋上。
邦雄曰く、詞書には「村上の御時、八月ばかり、上久しう渡らせ給はで、忍びて渡らせ給ひけるを、知らず顔にて琴弾き侍りける」とある。「あやしき」とは常ならぬ切なる思いを、実にゆかしく表現しており、馥郁たる秀歌だ。この歌、続古今・秋上では「題知らず」として「秋の夜のあやしきほどの黄昏に萩吹く風の音を聞くかな」の形で採られている、と。


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