野分せし山の木の間を洩る月は‥‥

Himawari

−世間虚仮− 禁煙ならぬ「禁煙法」のすすめ

10月1日からとうとう大阪市でも路上喫煙禁止条例が施行された。とりあえずの禁止地区は御堂筋全域と市庁舎付近一帯とか。やがて市内全域における路上禁煙となるのは時間の問題なのだろうが、喫煙者にとっては愈々肩身の狭い世間となってきたものである。
違反者には罰金1000円也が課されるというが、そういえば施行初日の朝、2時間半の取締りで30人近くが過料となったと報じられていたったけ。
日本専売公社日本たばこ産業(株)=JTと民間の特殊法人となったのが1985(S60)年4月1日だから、すでに20年余が経つが、この間の欧米諸国から波及してきた喫煙有害キャンペーンの高まりは止まることを知らず、全国各地にあったJTのたばこ製造工場も年々閉鎖されており、現在17工場を残すのみとか。
年間の国内販売数量も96年から06年の十年余で、3,483億本から2.700億本と22%もの減少となっており、その背景には健康志向の高まりによる禁煙率の上昇と相次ぐ値上げとが大きく影響しているとしか思えぬ。
その健康志向からの厚生省の指導ゆえとは判っていても、生産者であり売り手であるJT自らが、その自社製品を健康に有害であるから吸い過ぎに注意と、パッケージに警告の文言が付されるという、矛盾このうえないまことに奇妙な事がなされるようになったのはいつの頃からだったか。
自販機から落ちたタバコを手にし、ふとその文言を眼にするたび、ちょっとした奇異感を抱いたものだが、それもいつしか倣いとなって、眼に入れど眼中になし、といった体でやり過ごすようになってずいぶん久しいものだ。
ところが、なぜだか今日は外出から帰ってきて椅子に腰掛けた瞬間、なにげなくふとそのパッケージに書かれた文言に眼がいって読んでしまったのだが、初期の頃の申し訳程度のキャンペーンからいつのまにこんなにまで徹底したものになったものかと、その変容ぶりに気づいてビックリした次第。
曰く「人により程度は異なりますが、ニコチンによる喫煙への依存が生じます。」
その裏には「喫煙は、あなたにとって脳卒中の危険性を高めます。」とあり、さらにその下には「疫学的な推計によると、喫煙者は脳卒中により死亡する危険性が非喫煙者に比べて約1.7倍高くなります。」と丁重なるご忠告。
偶々、まだ捨てずにあった空き箱も含めて4つのパッケージを見比べてみれば、これが驚きで各々みな書かれていることが異なっている。
曰く「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります。」その下の解説では同様に「約2倍から4倍」と。
また曰く「妊娠中の喫煙は、胎児の発育障害や早産の原因の一つとなります。」その下には同様に「約3倍」と。
さにらまた「喫煙は、あなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます。」また同様に「約1.7倍」と。
さらにさらに「たばこの煙は、あなたの周りの人、特に乳幼児、子供、お年寄りなどの健康に悪影響を及ぼします。喫煙の際には、周りの人の迷惑にならないように注意しましょう。」などとまことにヴァリエーション豊富なのには畏れ入った。
300円のたばこに6割余の税をかけ、2兆円余の税収を得ながら、かほどにまで健康被害を云々し節煙・禁煙キャンペーンをはらねばならないというのもずいぶん人を喰った話だが、その矛盾はさておき、ならば昔あったアメリカの「禁酒法」よろしくとっとと「禁煙法」なり「たばこ販売禁止法」なりを政府主導で作ってしまえばよかろうもので、順法精神の旺盛とはいえぬまでも自らすすんで違法行為なぞできぬ小心者の私など、「禁煙法」成立とあれば万事休すと禁煙せざるを得ないというものではないか。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<秋−134>
 ふるさとは散るもみぢ葉にうつもけて軒のしのぶに秋風ぞ吹く  源俊頼

新古今集、秋下、障子の絵に、荒れたる宿に紅葉散りたる所をよめる。
邦雄曰く、千載集にも見る俊頼の紅葉は「秋の田に紅葉散りける山里をこともおろかに思ひけるかな」と、着目の面白さが修辞の理がましさで死んでいたが、この障子歌は景色を叙したのみで一切説明は消し、惻々たる侘びしさを伝えているあたり、新古今歌人の好尚に合致したのであろう。上・下句の対照によって秋の心を強めているが、即き過ぎの感もある、と。


 野分せし山の木の間を洩る月は松に声なき雪の下折れ  三条西実枝

三光院詠、秋、山月似雪。
邦雄曰く、異色ある眺めと意外な表現を求めながら、あくまでも作法の則は越えまいと苦心した結果、渋く微妙な味わいの、この雪折れ松のような歌が生まれる。第四句の「松に声なき」あたり自信のある技巧と思われる。惜しむらくは上句の説明臭だが、これもまた16世紀後半の特徴の一つか。作者は細川幽斎に古今伝授をした歌人として令名を謳われる、と。


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