木々の心花近からし昨日今日‥‥

Kumano_syoyo_23

−世間虚仮− ニュース三題

金大中事件
34年前(73年8月)の金大中拉致事件は、当時の韓国大統領朴正熙の関与したものであろうとは事件直後から推測されていたことだが、昨24日、韓国情報院の調査委がKCIA犯行説を結論づける報告書を公開したことでその蓋然性は愈々高くなったとみられる。
事件2年前の大統領選において民主党金大中候補は現職の朴正熙に97万票差に迫る支持を得ていた。この選挙直後、大型トラックが金大中の乗る自動車に突っ込み、死者3人を出すという事故を起こしている。幸いにも金大中は死を免れたが、腰や股関節に障害を負った。ずっと後に政府は、KCIAによる事故を装った暗殺工作であったことを認めている。
同じ年、朴政権は非常事態宣言を布告、戒厳令を敷いた。いわゆる十月維新である。身に危険の迫る金大中は海外へと亡命生活を余儀なくされ、主に日本やアメリカに滞在することになる。


「学力テスト」
今年4月に全国の小6・中3生を対象に実施された学力テストの調査報告が文科省から公表されている。
実施されたテストは、国語と算数・数学ともに、A=知識、B=活用に分けられていたらしい。応用ならともかく「活用」とは耳慣れないが、近頃の指導要領ではそういうことなのか。
小6国語A=81.7%、B=63.0%、算数A=82.1%、B=63.6%
中3国語A=82.2%、B=72.0%、数学A=72.8%、B=61.2%
とそれぞれの正答率が示され、基礎たる知識は結構だが活用は苦手の傾向と報じられてが、私などには正答率の高さにむしろ驚いているくらいで、基礎と応用のこれくらいの落差は取るに足らぬごく常識的なものではないかと思われる。
地域間格差も昔に比較すれば非常に縮まっているという。然もあろう、結構なことではないか。犯罪や自殺の低年齢化と学力の低下傾向などはそんなに短絡的に結びついているものでもない。昔に比べて世界水準のなかで子どもたちの学力が相対的に低落傾向にあることなど、高度成長期の頃じゃあるまいし、そうムキになって目くじら立てるほどのことではなかろう。
安倍宰相の置土産のようなこの学力テスト、文科省は今後も毎年続ける意向のようだが、果たしてそんな必要があるのか大いに疑問。


「新幹線・栗東駅
もったいないとばかり嘉田新知事を誕生させた、新幹線の新駅誘致騒動に揺れた滋賀・栗東駅問題にやっと終止符が打たれた。
この春の統一地方選挙で、新知事への抵抗勢力たる県議会の自民勢力が大幅に後退したのが分岐点となっただろう。
抑も建設費約240億円を地元負担で誘致しようというこの計画、地域活性化を新幹線の新駅でと巨費を投じようとの構想自体、時代の要請に逆行する発想としか思えぬが、中止と無事決着をみたことはよかったのではないか。
それにしても地元負担による誘致駅を「請願駅」と呼ぶようだが、国と地方の権力構図そのままにこんな呼称が罷り通っているなんて溜息の一つも出てこようもの。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>
秋の歌も前稿で最後となり、夏・冬・恋・雑とともにすべて完、あとは春の歌を七十数首残すのみとなった。これから晩秋を経て冬の到来となるというのに、時節柄不似合いな春の歌を紹介していかねばならないのは些か恐縮ではあるが‥‥。

<春−73>
 木々の心花近からし昨日今日世はうす曇り春雨の降る  永福門院

玉葉集、春上、花の歌よみ侍りける中に。
邦雄曰く、春上の巻軸に近く、桜花やうやく咲き出る前駆の歌として現れる。開花を誘う春雨の歌として八条院高倉の「ゆきて見む今は春雨ふるさとに花のひもとくころもきにけり」がこれに続くが、「木々の心」と六音初句で歌い出す永福門院の、至妙の修辞とは極めて対照的に温順な調べだ。第四句の「世はうす曇り」も一首にふくらみと重みを加える、と。


 桜咲く遠山鳥のしだり尾のながながし日もあかぬ空かな  後鳥羽院

新古今集、春下。
邦雄曰く、新古今・春下巻頭第一首。藤原俊成の90歳の賀を祝った時の屏風歌、「山に桜咲きたるところ」。山鳥の尾の第二・三句が人麿の本歌取りであることなど、霞んでしまうくらい悠々として長閑に、かつ艶な眺めであり、帝王の調べといえよう。建仁3年霜月、後鳥羽院23歳、賀歌はそのまま院の、春たけなわの世の風光であり、心の花の色であった、と。


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