花咲かば告げよと言ひし‥‥

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−表象の森− ベジャール逝く

先週の金曜日(23日)だったか、「20世紀バレエ団」を率い前世紀後半の舞踊界に君臨してきたモーリス・ベジャールの死が報じられていた。享年80歳だったとか、つい先頃まで本拠たるスイスのベジャール・バレエ・ローザンヌにて指導していたという。
出世作となった「春の祭典」の振付には偶々見た鹿の交尾に想を得たという話があるが、成程鬼才らしい伝説かと思われる。また哲学者であった父の影響で東洋思想にシンパシィを抱いていたともいわれ、「ザ・カブキ」や三島由紀夫を題材にした「M」などの作品や、能の様式に示した並々ならぬ関心もそのあたりに伏流があるのだろう。
映画「愛と哀しみのボレロ」の振付では舞踊界のみならず世界的名声を獲たが、今世紀に入ってからの晩年は、新作の発表もあるにはあるが、若い生徒たちで創ったカンパニーで後進の育成にもっぱら精を出していたとみえる。
古典的でありつつもモダニズムに溢れたベジャールの作品は、とくに80年代以降、日本のバレエ界に鮮烈な刺激となって、ずいぶん影響を与え活況をもたらしたようであった。以後、コンテンポラリーのひろがりと相俟ってダンスとバレエの離反もかなり近接したかのようにみえる。

そういえばベジャール訃報の数日前、ピナ・バウシュ京都賞授与のニュースが報じられていた。
稲森財団による京都賞はまだ20年余りの歴史にすぎないが、古都京都人の進取性も感じられ国際的な評価も高い。先端技術や基礎科学の他に思想・芸術部門が設定され三つの部門で毎年3人が選出されている。歴代の受賞者一覧を見れば音楽家が突出しており、以下哲学や思想家たち、美術や建築、それに映画界の巨匠が居並ぶ。
ベジャールも99年に受賞しており、これで舞踊界からは2人目の受賞となり、演劇界からの選出が唯一ピーター・ブルックのみというのに比して際立つ特色ともいえそうだ。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<春−83>
 花咲かば告げよと言ひし山守の来る音すなり馬に鞍おけ  源頼政

従三位頼政卿集、春、歌林苑にて人々花の歌詠み候しに。
邦雄曰く、兼ねての約束通り山守が蹄の音も高らかに罷り越した。今に「花咲き候」と、朗らかに告げることだろう。待つこと久し、馳せ参じようぞ。今宵は宴、照り白む桜花のしたで明かそうよ。白馬に金覆輪の鞍を置け。弾みに弾む四句切れの命令形止め。武者歌人の面目躍如たる雄々しい調べは比類がない。76歳で以仁王を奉じ、宇治平等院にて敗死、と。


 いざ今日は春の山べにまじりなむ暮れなばなげの花の蔭かは  素性

古今集、春下。
邦雄曰く、雲林院皇子即ち仁明帝皇子の常康親王のお供をして、北山へ花見に行った折の作。日が暮れたからとて花陰が消えてなくなるわけでもあるまいと、放言に似た、屈託のない下の句が、繊細を極めた春の歌群に交じって、かえって快く響く。「思ふどち春の山べにうち群れてそことも言はぬ旅寝してしが」も春下に見え、愉しくかつ微笑ましい、と。


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