亡き人の日数も今日は百千鳥‥‥

Sakokunohigeki

−表象の森− 迷走の譜

先月の27日以来、久し振りの言挙げである。
このところ読むことばかりにかまけて些か私の脳は混濁気味なのだろう。書くこと、言挙げするにはなかなか気がいかない、どうにも腰が重かったのだ。
一つには宮本常一の「忘れられた日本人」から衝き動かされるもの、柳田民俗学や折口学にも掬い取られてこなかった被抑圧者たち、夥しい無名の人々の、文字通り忘却の彼方にしまい込まれたことどもに、もっと触れておかねばならぬと痛切に感じたこと。
二つには蔵本由紀の「非線形科学」が啓発してくれた世界。微分積分の数式などまったく解せぬ数学音痴の徒が、複雑系、偶然性の科学的知をまっとうに理解できようはずもないのは百も承知なれど、その世界のおよその図式というか見取り図というか、それくらいは解しておかねばなるまいと思い至ったこと。
まるで異なる二つの主旋律に囚われつつ、迷走のうちにあるというのが現況といえようか。


以下はこの一月ほどの乱読迷走譜
11/03. Y.ブルクハルト「イタリア・ルネサンスの文化 -1-」読了。以前に途中まで読んでいたのを続読。
11/04. 小田実「大坂シンフォニー」を飛ばし読む。
11/05. 同じく小田実「GYOKUSAI/玉砕」を飛ばし読む。
11/08.  Y.ブルクハルト「イタリア・ルネサンスの文化 -2」読了。
 〃  米沢富美子「物理学入門 -上-」これまた以前に途中まで読んでいたのを続読。
11/10. 米沢富美子「物理学入門 –下-」読了。
11/12. A.ネグリ・M.ハート「マルチチュード <帝国>時代の戦争と民主主義 -上-」読了。
11/14. 西原克成「内蔵が生みだす心」読了。
11/15 池内了「科学を読む愉しみ -現代科学を知るためのブックガイド」読了。
11/17. 氏家幹人「サムライとヤクザ -「男」の来た道」読了。
11/18. A.ネグリ・M.ハート「マルチチュード <帝国>時代の戦争と民主主義 –下-」読了。
11/20. 沖浦和光「日本民衆文化の原郷 - 被差別部落の民族と芸能」読了。
〃  辻惟雄「日本美術の歴史」読了。
11/22.  J.L.キャスティ「ケンブリッジ・クィンテット」読了。
11/27. 宮本常一・他編「日本残酷物語 -3- 鎖国の悲劇」読了。
11/29.  松下貢編「非線形非平衡現象の数理 -2- 生物にみられるパターンとその起源」を飛ばし読む。
11/30.  宮本常一・他編「日本残酷物語 -2- 忘れられた土地」以前に飛ばし読みしていたのを再読。
以後、「日本残酷物語 -4- 保障なき社会」を併読しつつ、
12/05. ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて –上- 」読了。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<春−84>
 亡き人の日数も今日は百千鳥鳴くは涙か花の下露  仏国

仏国禅師御詠。
邦雄曰く、百千鳥はもともと数多の鳥の意で、万葉歌にも見るとおりだが、鎌倉期には鶯の別名に錯用され、慈円や定家の歌にも春の部に現れる。人の親の百箇日の供養の経と、古歌の「鶯の凍れる涙」を歌の背後に置き、鮮麗な哀傷歌に仕立てた。意外な技巧派の一人である仏国国師の代表作の中に入れてよかろう。家集に道歌紛いの釈教歌は意外に少ない、と。


 身に代へてあやなく花を惜しむかな生けらば後の春もこそあれ  藤原長能

拾遺集、春。
邦雄曰く、謙徳公の息、藤原義親の家の桜を惜しむ歌と詞書にある。花を愛し春を惜しむ心も、「身に代へて」「生けらば後」と、悲愴味を帯び深刻な趣を添え、かつ哀切を極めるのも、王朝歌の一面であろう。長能は右大将通綱母の弟、能因法師の師。雑春に「かた山に畑焼く男かの見ゆる深山桜はよきて畑焼け」あり、明快にして率直、これも作者の一面、と。


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