庭の面は埋みさだむるかたもなし‥‥

Ohgenki_01

Information「Arti Buyoh Festival 2008」

−表象の森− 生命とリズム

以下は東京大学出版会非線形非平衡現象の数理1−リズム現象の世界」書中の「2. 生命におけるリズムと確率共鳴」からの抜粋引用である。

「太古においては、Circadian rhythm−概日周期−に同期しない、1日に数回のリズムを刻むものからまったくリズムを刻まないものまで、さまざまなリズムで生活する生命も存在したと考えられるが、地球の自転リズムに共鳴した化学反応機構をもった生命のみが選択され進化し、現在に生き残ってきたと考えられている。」

「異なったリズムを示す非線形振動子が、別の安定なリズムに引きずられて同期することを、<引き込み>と呼ぶ。」

「生命にはこのcircadian rhythmに限らず、年周期のようなマクロからミリ秒単位のミクロな周期まで多くのリズムを生み出す非線形振動子が階層的に存在し、それらの振動子が互いに相互作用して、カオスや各種の生理活動に必要とされるマクロリズムをつくっている。生命はこのようなリズムの存在によって時間を認識して活動し、ひいては高等生命では脳や神経で情報を生成・取得・認知していると考えられている。」

「引き込みによって生まれるマクロな同期現象が生体にとって機能障害となる場合もある。’97年に日本中を騒がせたいわゆる「ポケモン騒動」、TV番組のポケットモンスターを見ていた全国の子どもたち数百名が、10秒間ほど赤・青に強烈に点滅する画面(註−正確には4.5秒間で、1秒に12回の点滅が続いた)で、突然てんかん症のような引きつけや吐き気をもよおし、病院に担ぎ込まれた事件は、周期視覚刺激による一種の脳内リズムの引き込み現象によるもので、引き込み現象がてんかんなどと同様に、脳の機能障害を起こした例である。その他にも、手足に周期的な震え<振動>を導くチック症やパーキンソン病なども一種の引き込みによる機能障害といえる。このように引き込み現象は生体を維持し機能改善する面ばかりでなく、重大な傷害を導くこともある。」

「その一方、引き込みと雑音をうまく活用すると、このような機能障害をむしろ改善できることがわかってきた。通常の人工的なセンサーでは、雑音は信号を乱し、信号検出や情報伝達に雑音の存在は明らかに不利であるが、流れの急な川の石の下や滝壺の中に棲息する魚やザリガニは、周囲にさまざまな雑音がありながら、人が近づけばただちに感知し逃げ隠れる。ヘラチョウザメは餌であるミジンコの電気信号を感知して、ミジンコを捕らえるが、外部からある強度の電気ノイズを加えると、ミジンコをより的確に感知し捕捉できることがわかってきた。人間にしても、カクテルパーティ効果と呼ばれる雑音環境下の鋭い聴覚現象が知られている。」

「このように、生物はむしろうまく雑音を利用しているが、これは生物のセンサー系が非線形で、外力に対する応答に閾値をもっていることに起因している。つまり、潜在的に弱いリズムや双安定閾値をもつ系に、ある最適な雑音が加わるとそれまで隠れていたリズムがむしろ顕在化し感度が良くなる。すなわち信号対雑音比 signal-to-noise ratio:SNR が上がることがわかってきた。類似の現象は、BZ反応にも観測され、これらの事実は、これまでの雑音に関する通説とは逆であり、これを確率共鳴現象と呼ぶ。カオス現象と同様、非線形力学系の新しい一面を示す現象である。」


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<春−100> 花散らば起きつつも見む常よりもさやけく照らせ春の夜の月  大中臣能宣

続後拾遺集、春下、春の歌の中に。
邦雄曰く、祭主大中臣家は歌の名門だが、伊勢大輔の祖父能宣はわけても名手、その隠れた秀歌と言うべき落花春月の軽やかに重い二句切れ、潔い四句切れ、悠々としてしかも鮮烈なこの抒情は無類である。14世紀後醍醐帝勅撰の第十六代集に入選したことは、愉しくかつゆかしい。能宣集ではこの歌、「春夜月」の題で見える。「常よりも」が一首の要、と。


 庭の面は埋みさだむるかたもなし嵐にかろき花の白雪  津守國助

玉葉集、春下、題知らず。
邦雄曰く、定家の庭前落花詠「問はばぞ人の」の趣向もさることながら、一面に散り敷いて薄い層をなす桜が、強風にひらひらと舞い戯れるあやうさを、「嵐にかろき」と歌った國助の技法も並々ではない。亀山院北面の武士で、和歌の才抜群と謳われ、玉葉集はこの一首のみだが、続千載集には21首、総入選78首、摂津守、住吉神社神主の家系、と。


⇒⇒⇒ この記事を読まれた方は此処をクリック。