ながめやる外山の朝けこのままに‥‥

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Information「Arti Buyoh Festival 2008」

−温故一葉− 三好康夫さんへ

 寒中お見舞い申し上げます。
お年賀拝受。私儀、甚だ勝手ながら本年よりハガキでの年詞の挨拶を止めましたので、悪しからずご容赦願います。

昨夏は、神戸学院Green Festivalの「山頭火」に、明石の山手という遠方まで、わざわざお運びいただきありがとうございました。「山頭火」につきましては、たびたびのご愛顧ご贔屓に与り、まことに感謝に堪えません。
大文連のほうも、私とほぼ同年の高田昌君が会長にと、ぐんと若返った陣容となり、ながらく沈滞気味の関西文化に大いに刺激剤となるのを期待したいものですね。

敢えて高田君としたのは、昔は彼とも縁の深い一時期もあった所為なのですが、70年代、彼が関芸を退き、舞台監督として自立をはじめた頃でしょうか、照明の新田君の強い薦めもあって、私方の舞踊や演劇公演で舞監として支えて貰っていたのです。高田・新田両君という、私にすれば最良の舞監・照明コンビがStuffとして、この時期よくその才を発揮し、支えてくれたからこそ、78(S53)年の「走れメロス」へと結実し得たのだという想いは、昔も今も変わりません。

さらに遠く十年ばかり遡って66(S41)年の春、「港文化の夕べ」なる、いまでいう港区民ホールで行われた地域文化の小さな催しが、大先達の貴方と私の出会いでありました。私たちは、当時大阪税関であった労働争議を描いた創作劇に関係者より依頼を受け、演出及び協力出演をしたのでしたが、この終演後に貴方からさりげなくいただいた一言が、弱冠21歳の私にとっては忘れ得ぬ宝となって、いまなお鮮やかに胸中深く抱かれております。
後にめぐりめぐって、大文連事務局の西美恵子女史の夫君が、当時の税関労組の闘士であり、この創作劇の出演者でもあったという、そんな不思議な縁の糸に繋がっていたとは、さすがに驚き入ってしまいましたが‥‥。

翌67(S42)年の春、遅まきながら私は、関芸演劇研究所に第11期生として入所します。当時の指導責任者は道井直次さんでしたが、12月になって前期卆公のレパ選の際、私が推した作品で一悶着あって、私は研究所を退いたのでした。この時、問題の収拾に指導力を発揮されたのが小松徹さんで、これまた十年を経て、その小松さんと「走れメロス」で協働することになるのでした。
まこと人と人との綴れ模様、不可解ともまた隠れたる糸ともみえ、おもしろ可笑しきものですね。

なにはともあれ、朝夕の冷え込みも厳しくなり、ご高齢の御身、呉々もお気をつけてお過ごし下さいますように。  
  08戊子 1.16  林田鉄 拝


三好康夫さんはもう90歳にも届かれよう高齢の大先達。
関西芸術座の創立メンバーであり、劇団にあって主に制作や経営の人。私が初めてお逢いした67(S42)年当時は代表者であったはずだ。
関芸は創立時から演出家であり俳優でもあった岩田直二氏が代表を務めたが、中ソ論争の激化のなか、63(S38)年に志賀義雄らが日本共産党に除名されるが、こういった路線対立の紛争が劇団にも影を落としたのであろう、岩田直二が代表を退き、中間派の三好さんが推されてなったのであろう。
60年代から70年代、政治と文化のあいだは党派性をめぐる相剋にたえず揺れ動いた時代でもあった。その激しい波のなかで、やがて三好さんも代表の座を辞し、関芸を去っていく。
その三好さんが中心になって、大阪府内を拠点に活動する芸術・文化団体の相互交流のため、大文連(大阪文化団体連合会)を全国に先駆けて結成するのが、いまから30年前の78(S53)年である。


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<春−107>
 つれなくて残るならひを暮れてゆく春に教へよ有明の月  二条為世

後撰集、春下。
邦雄曰く、命令形四句切れの擬人法、技巧を盡した第一・二句あたりが、二条家流の特色でもあろう。鎌倉時代後期の歌風は、新古今調に今一つの新生面を拓くことに懸命な様が見られる。この歌は後宇多院在位時代に、「暮春暁月」の題で歌を召された時のもの。「て」が重なるところが煩わしいが、口籠りがちに歌い継いでゆく呼吸も感じられて捨てがたい、と。


 ながめやる外山の朝けこのままに霞めや明日も春を残して  藤原為子

玉葉集、春下、暮春朝といふことを人々によませさせ給ふけるに。
邦雄曰く、作者の玉葉集入選56首、春は6首を占め、いずれも心に残る調べだが、春下巻末に近い、「外山の朝け」は一入に余情豊かである。「このままに霞めや」の、願望をこめた命令句が、上・下句に跨るあたりも格別の面白さで、結句の「春を残して」なる準秀句が一際冴える。調べの美しさは、春の巻軸歌、為兼の三月盡を歌った作を凌ぐ感あり、と。


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