ぬす人の記念の松の吹おれて

Db070509t095

−温故一葉− サンデー太極拳の仲間、玉瀬富夫さんに

 鶯鳴く立春とはいえ今冬一番の寒さが続きますが、如何お過ごしでしょうか?
メール拝見、イヤー、吃驚しました。あの雪降るなかをわざわざ京都までお運び戴いたとは思いもよりませんでした。私もずっと会場に居たのですがまったく気づかず、懐かしいお顔に接する機会を失し誠に残念、とんだ失礼を致しました。それにしてもほんとに久し振りのこと、遠路わざわざ駆けつけて戴きありがとうございました。

洋子夫人は骨折なされたとか、とんだ災厄に遭われましたね。それも背骨とは身体の要ともいうべき箇所、ましてや林住期を健やかに謳歌すべく、太極拳指導員の資格を取られていたと聞き、また指導に勤しんでおられたとも聞き、さぞ無念やるかたなきことだったでしょうに、お見舞いの言葉もありませんが、じっくりとご養生、リハビリにお努めなさいますようお伝え下さい。

それにしても懐かしい音信に接し、しばし往時のサンデー太極拳などの風景が蘇り、当時のみなさんのお顔がまざまざと脳裏をめぐりました。勝本さんご夫婦や渡辺さんもご壮健の由、折につけ仲良く顔を合わせる機会を持たれているようで、心和む思いが致しました。

春にはカンボジアベトナムへと旅をなさる予定とか、ご一緒なさるのは英会話のクラスメイトですか、いいですね。私もインドネシアのバリ島やシンガポールには行ったことがありますが、其方のほうへは残念ながらまだ機会を得ておりません。タイ・ビルマも含め東南アジア各国へもいつか行ってみたいものと思うのですが、はてそんな機会が訪れるかどうか、今のところ予測もつかないといったところでしょうか。

山頭火は時折とはいえ演じておりますよ。昨年は6月に明石の山手にある神戸学院大学に招かれ、200名近く集まったでしょうか、地域のお客を前に演じてきました。今年はまだ予定なしですが、ま、一生ものですから、焦らずじっくりと続けていく所存でおります。
いずれ懐かしいみなさんともお逢いしたいものですね、そんな折があるようでしたら是非にも声を掛けてください。
とりあえずお礼旁々。
  08 戊子 如月


泉北の晴美台に住んでいた頃、四方館「からだのがっこう」と名づけた活動のなかで、地域の人たちに呼びかけて、日曜日の朝のひとときを太極拳につどう、その名も「サンデー太極拳」なる講座を、82(S57)年の春から転出するまでの数年間を続けたが、玉瀬富夫・洋子夫妻はその開始当初からずっと欠かさず通ってこられた人である。その彼がどこででどう聞きつけたか、ALTI Fes.の第一夜に、わざわざ京都まであの雪の中を観に来てくれ、メールを頂いたのであった。

私自身の太極拳歴を云えば、この年の1月、楊名時指導の1泊2日の合宿にて簡化24式を受講したのがその初めで、同じ年の5月、大阪太極拳協会主催の講座で、中国から招かれた陳式の講師による48式を受講している。このときはたしか週に一度の4回のlessonだった。さらに84(S59)年の春、-染色家の千葉綾子の家族に帯同して台湾台中に10日間ほどの旅をした際、その滞在の間、羅彩文女史より個人指導を受け楊家太極拳64式を習得したくらいで、要するにバラバラのつまみ食いといった体なのだが、体技であれなんであれ技の修得をめざすには、師に付き従って習いつつ同時にこれを別の他者へ伝える作業、すなわち教えることを自身併行させるのが上首尾をもたらすもの、「習わば教えよ」が私流の実践哲学であってみれば、自身の太極拳習熟と地域住民との交流をひろげる目的で始めた「サンデー太極拳」であった。

この会は来るたびに100円也を場所代として納めるという形にした。それ以外にはなんの制約もない。こうすれば自由に出入りできる。来たいとき来れるときに来て汗をかけばよい。泉北に居住する中高年の男女が、多いときは50名ほどの賑やかさをみせ、少ないときは数名の日もあるなど、人の出入りはかなり激しかったが、一時間余ひとしきり身体を動かしたあとは、ぐるりと円座となってみんなで茶を飲みながらひとときの閑談となる、そんな集いが5年あまり続いたか。ふりかえれば懐かしい人々である。


<連句の世界−安東次男「芭蕉連句評釈」より>

「狂句こがらしの巻」−21

   いまぞ恨の矢をはなつ声   
  ぬす人の記念の松の吹おれて   芭蕉

「記念」は-かたみ-。
次男曰く、荷兮の句が掛け声の見栄なら、芭蕉の句は洒落た書割のようなものである。動・静の呼応を以てした軽口のはこびに過ぎないが、たかが書割作りに懐古の情を持たせたところがさすがである。

「吹折れし松に大盗の名を残し」もしくは「――松は大盗の名を負ひて」、とでも作り直してみるとよい。「記念-かたみ」と取り出し、「吹おれて」と据えた巧さがわかるだろう。
次句もおのずと興を誘われる、と。


⇒⇒⇒ この記事を読まれた方は此処をクリック。