歯朶の葉を初狩人の矢に負て

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―世間虚仮― 意外に愉しめた世界卓球TV中継

中国・広州で行われていた世界卓球のTV中継を、女子準決勝と男子準決勝と、卓球の中継映像など滅多にお眼にかかるものではないからか、ついつい誘われて連日観てしまった。
狭い卓球台を囲んでの対戦模様は、映像としてDynamismに欠けるものの、1count毎の勝負が一瞬の隙に決まるだけに、息つく暇もなく眼が離せないもので、意外と面白く愉しめた。

男子の日本選手団には中国出身の韓陽と吉田海偉の2人が主力を占めているし、女子準決勝で対戦したシンガポールは3人とも中国出身という。世界卓球のトップクラスは殆ど中国勢で占められているというのが実情のようだ。
女子のなかで弱冠15歳の石川佳純の善戦ぶりは爽やかな印象を残したが、これと対照的なほどに鬼気迫る表情で闘い続ける平野早矢香の勝負への執念ぶりには少なからず圧倒された。惜しくも敗れ去ったがその闘魂、その集中力には観る者を揺さぶってやまない力があった。
男子の韓国戦では29歳という韓陽が冷静な試合運びで1勝をもぎとったが、ドイツリーグで活躍するという18歳の若きエース水谷隼も奮闘虚しく惜敗、男女ともに決勝に臨めなかった。それにしても水谷と韓国のエース柳承敏戦は見応えのあるものだった。一進一退の勝負の綾、選手心理のデリケートさがよく伝わってくる画面だった。


話は変わって、北京オリンピックも近く、五輪施設の話題が供されることも多いが、これらの競技施設には洋式トイレがない、あるいはあったとしても申し訳程度で極めて少ない、というのが話題になっていた。聞いてビックリである。
デリケートな体調管理にトイレ問題は選手達にとってさぞ深刻なことだろうに、とんでもないことだが、自国選手団は一向に困ることなんかないだろうから、これも中国らしい深謀遠慮かと思えば、笑い話にもならぬふざけたお国柄だが。

新しい五輪の競技施設でさえそうなら、世界卓球の会場となった広州の体育館など、選手にとってさらに劣悪な環境なのだろうと推測される。海外での競技ともなれば、選手たちは闘う以前に、体調維持のコントロールに敗れ去ることも多かろう。ことほど習慣と環境の齟齬は、選手の生命線を奪いかねないと思うのだが‥‥。


<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

「霽の巻」−03

   こほりふみ行水のいなづま   
  歯朶の葉を初狩人の矢に負て   野水

歯朶-シダ- 初狩人-ハツカリビト- 負て-オヒて-

次男曰く、「こほりふみ行」の虚を見定め、二句一章の実に奪った句作りである。併せて冬から初春への季移りにこれをつかったところがうまい。狩の目付もよい。歯朶の葉を初山入の籠に負て、などと作れば「水のいなづま」の響きは忽ちに消えるだろう。

初狩という季語はあるが、初-狩人とは云わない。ハツカリビトと訓んでおく。
「貫衆ト書テウラジロトヨム。モロモロヲツラヌクユエ、狩人ノエンギトシテ正月ノ裏白ヲ持出シタルトミテ、転ジタル也」-秘注-、「無常観想の所をさらりと放下して狩人と付たる、其働きあり」-升六、冬の日注解-。

「前句を観れば辞の上には人無けれども、人有りて、人有ればこそ氷も破られ水も迸るなれ。此句は其人を初狩に出づる新年の人として、いさぎよき景色をあらはしたり。‥‥発句脇句の絢爛幻奇とは異りて、平正淡雅の句ぶり、変化の働き特に賞すべし」-露伴-、「巧みに手を移せるが、その自然にして幽渺なる転じ方を看るべし。‥‥新春の祝意を失はず一句をゆつたりと為立てたる手段凡匠の及ぶ所にあらじ」-樋口功-。

句ぶりに惚れても付・はこびの解釈にはならぬ、と。


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