らうたげに物よむ娘かしづきて

Db070510038

<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

「霽の巻」−07

   茶の湯者おしむ野べの蒲公英  
  らうたげに物よむ娘かしづきて  重五

次男曰く、「らうたげ」は可憐な風情。「かしづく」は、慈しみ育てる、大切に世話をする。本来は保護者が被保護者に対して、とりわけ親が子に対して振る舞うわざについて遣われたことばのようだが、転じて、主や夫に仕える意味にも遣う。上下の混用は既に「源氏物語」などにも見える。「かしづき娘」-東屋-と云えば大切に育てている娘、「かしづき人」-真木柱-とあるのは随仕の者だ。

ここはそのかしづき娘のことで、娘が其の人-茶の湯者-に介添しているのではない。前句の野草に寄せる愛情のこまやかさを、人物の上に移して句の位を釣り合せたまでで、とくに解を用いぬが、冬二句・春四句に続けて裏入早々恋の呼出しと容易にさとらせる雑の作りである。

升六の「注解」は「らうたげに」を、「心を労する義なれば爰は物よみに深くなづみし女なるべし」と解し、「前句の茶人、儒者の娘などを誘ひて野べを逍遙する体を附たり」と云うが、はこびを野遊びに娘を伴ったと読む必要はどこにもない。また「娘」はここでは其の人の娘と解しておけばよく、「娘」の身分・境遇などをさぐって話作りのたねにする転合はまさに次句のはたらきである、と。


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