かきなぐる墨絵をかしく秋暮て

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―世間虚仮― 政令判決

今日の毎日新聞の社説、「徳政令判決」の見出しが眼を惹いた。

暴力団ヤミ金事件に、利息だけでなく元本をも賠償すべしとの最高裁判決が出されたのは10日だったが、法外な利息で生活破綻に陥ったヤミ金被害者に対し、元本も弁済無用と借り手側の全面救済へと踏み込んだ、ひらたく云えば借金をチャラにするこの判決、なるほど日本史で馴染みの「永仁の徳政令」にも似て、「徳政令判決」とは言い得て妙とちょっぴり感心したものである。

しかしながら、よくよく思いめぐらせば、住専問題などで大きく焦げついた銀行や証券会社の金融資本を国税投入で救済に全力を挙げたこの国の官僚や政治家たち、この膨大な債務チャラの施策こそ平成版徳政令の元祖ではなかったか。以来すでに十数年、弱者たる国民はなべて利息ゼロ状態に等しい低利に喘ぎ、ずっと犠牲を強いられてきたのではなかったか。

画期的と看做してもいい最高裁の徳政令判決も、金融資本の破綻救済劇といった政官の大悲?には比べものにもならぬ小善にすぎぬということだ。

それよりもこの先案じられるのは、770兆円を超えてなお刻々と増えつづける国の財政赤字、この巨額の国債をチャラにと、極め付けの平成版徳政令が、いつどんな姿で立ち現れるのかだ。

ところで「日本の借金時計」というページをご存じだろうか。

野村證券出身の経済ジャーナリスト財部誠一が自身のサイトに設けたもので、2000年の春から登場したというこの借金時計、時々刻々と増えつづける国の借金総額と、これを世帯割りで割り出した数字を並列させ、ともに一秒ごとに変化する数値を刻んでいく、といったいたってシンプルな仕掛。

参考までに、今日-2008.6.12-午後4時00分00秒現在、日本の借金は774兆2047億9538万円、世帯あたり負担額は1645万0481円を刻んだこの画面、遁れようのないこの国の破滅的危機を伝えてやまず、かなり衝撃の図ではある。


<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

「鳶の羽の巻」−07

   人にもくれず名物の梨   
 かきなぐる墨絵をかしく秋暮て  史邦

次男曰く、初の裏に入る。季は秋三句目だが、前句の起情に趣向の一つも添えて、人物のはたらきを取出してみせる箇所である。

名物の梨は墨絵の肥やしにした、とあっさり話のけりをつけながら、配るでもなし売れるでもなし、さりとて時分の口に入ったわけでもなし、窮屈な羽目に嵌ったお蔭で思いがけぬ闊達気分を味わった、かえって造化の広大な恵みに与れた、という痩せ我慢の滑稽が、実は云いたいことである。

この「無用の用」の見定めは最初からのものだと思うが、去来が捨てた「栗栖野」の段の後半を、史邦は拾っているのかもしれぬ。

「かきなぐる」を、囲いを開放したい、と挑むさまに読んでも俳になるからだ。それなら付様は向いで、前句の人とは別人の付になる。

「をかしく」は「墨絵」と「秋暮て」の双方にかかる云回しで、「秋暮て」は大暮-季節の暮-のことだ。日の暮と見ると、打越の「宵」と差合う、と。


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