火ともしに暮れば登る峯の寺
「鳶の羽の巻」−21
雪けにさむき嶋の北風
火ともしに暮れば登る峯の寺 去来
暮-くる-れば
次男曰く、二句一意に作った島の暮しである。
「雪けにさむき」とあれば、「火ともしに」と起す初五文字の遣い方がまず巧い。「夕べにはともしに登る峰の寺」と云っても意味は同じだが、これでは寒暖の呼応は現れない。連句にならぬのだ。
「火ともしに」と初を取出せば、「暮れば登る」は自然の成行と見えようが、これも「宵から登る」では興にならぬ。「暮れば−登る」情は、「雪けにさむき−火ともしに」と不可分の興の工夫とわかる。
そういうことが、ごく日常的なことを語ったに過ぎぬ一行に、ドラマを孕ませる。言葉とは微妙なものだ。
作者去来は後年-元禄7年-この句について、浪化-ロウカ-宛のなかで、「誰ぞの面影に立申候句にて御ざ候」と告げているが、「雪けにさむき島の北風−夕べにはともしに登る峰の寺」や、「−火ともしに宵から登る峰の寺」などでは、俤の立たせ様もないだろう、と。
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