枇杷の古葉に木芽もえたつ

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<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

「鳶の羽の巻」−36

  一構鞦つくる窓のはな  

   枇杷の古葉に木芽もえたつ  史邦

古葉-ふるは-、木芽-このめ-

次男曰く、「花」ともなれば末にも賞翫の趣向がある、と凡兆が作れば、不易も流行してこそ不易になる、と史邦が合せて挙げている。物の末とは新芽のことだという俳の目付が大いによい。

挙句は打添えて和やかに付けるものだが、其場其人の伸しときまったわけではなく、興行の性格によっては予め用意しておくこともある。この句も、「鞦」から「古葉」を思付いたなどと気分で読むと筋を誤る。大方の評家が陥りがちな点だ。
史邦は、「猿蓑」が成れば天下の句風も、勢力分布図も、いよいよ一変すると云っている。期待を含ませた、新人らしい意気軒昂たる祝言だろう、と。


「鳶の羽の巻」

鳶の羽も刷ぬはつしぐれ       去来 −冬  初折-一ノ折-表
 一ふき風の木の葉しづまる     芭蕉 −冬
股引の朝からぬるゝ川こえて     凡兆 −雑
 たぬきをおどす篠張の弓      史邦 −雑
まひら戸に蔦這かゝる宵の月     芭蕉 −秋・月
 人にもくれず名物の梨       去来 −秋
かきなぐる墨絵をかしく秋暮て    史邦 −秋  初折-一ノ折-裏
 はきごゝろよきめりやすの足袋   凡兆 −雑
何事も無言の内はしづかなり     去来 −雑
 里見え初て午の貝ふく       芭蕉 −雑
ほつれたる去年のねござのしたゝるく 凡兆 −雑
 芙蓉のはなのはらはらとちる    史邦 −夏
吸物は先出来されしすいぜんじ    芭蕉 −雑
 三里あまりの道かゝへける     去来 −雑
この春も盧同が男居なりにて     史邦 −春
 さし木つきたる月の朧夜      凡兆 −春・月
苔ながら花に竝ぶる手水鉢      芭蕉 −春・花
 ひとり直し今朝の腹だち      去来 −雑
いちどきに二日の物も喰て置     凡兆 −雑  名残折-二ノ折-表
 雪けにさむき嶋の北風       史邦 −冬
火ともしに暮れば登る峯の寺     去来 −雑
 ほとゝぎす皆鳴仕舞たり      芭蕉 −夏
痩骨のまだ起直る力なき       史邦 −雑
 隣をかりて車引こむ        凡兆 −雑
うき人を枳殻垣よりくゞらせん    芭蕉 −雑
 いまや別の刀さし出す       去来 −雑
せはしげに櫛でかしらをかきちらし  凡兆 −雑
 おもひ切たる死ぐるひ見よ     史邦 −雑
青天に有明月の朝ぼらけ       去来 −秋・月
 湖水の秋の比良のはつ霜      芭蕉 −秋
柴の戸や蕎麦ぬすまれて歌をよむ   史邦 −秋  名残折-二ノ折-裏
 ぬのこ着習ふ風の夕ぐれ      凡兆 −冬
押合て寝ては又立つかりまくら    芭蕉 −雑
 たゝらの雲のまだ赤き空      去来 −雑
一構鞦つくる窓のはな        凡兆 −春・花
 枇杷の古葉に木芽もえたつ     史邦 −春


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