どの家も東の方に窓をあけ

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−表象の森− 身体-内-知覚へDigする

昨日の稽古、中国の健身気功をよくする谷田順子さんに、Work Shopよろしく実習講座をしてもらった。

気功を通して、それぞれのレベルにおいて身体-内-知覚をより高めるため、あるいは気功や太極拳でいうところの「気の流れ」なるものへ、それぞれなりの道筋がつけばといったところを狙いとしてのことだ。

午後1時前からはじめて4持まで3時間のWorkはなかなか充実したものであったと、少なくとも私の眼にはそう映った。
順子さんの指導ぶりは、4年ほど前だったか、彼女らの所属する健身気功協会による演武を観る機会があったが、その折の水準とは見違えるほどの習熟、練達を示しているのが歴然としていた。

さて受講側の3人、舞踊の身体表現における熟練度がそれぞれに異なる者たちにとって、このWorkの効用のほどはどうであったろうか。

如実に表れていたのは、まだ初心者にすぎないAyaの場合である。彼女には丹田への知覚の操法が効を奏したのであろう、従来見られなかった腰の座りと上体の軸が決まり、静止した立ち姿において大きな変化が覗えた。この習得が、静止から動きへ、動きから静止へと移っていくとき、破綻のない流れを保持しうるのかどうか、そのあたりにどれほど自覚的になれるのかが、これからの課題となるだろう。

Junkoの場合、かなり極端なほどの腰の歪みについては自身自覚しているのだが、それをどうしても矯正せねばなるまいという強い意志は未だ持たない。彼女の身体-内-知覚は、その肉体の柔軟さとともにごく素直なレベルで、いいかえれば無意識的にかなりの程度習熟しているといえる。だからというその理由だけではないだろうが、脳-意識と身体-感覚とが分裂あるいははなはだ乖離しているように私などには見える。両者をつなぐ、媒介する心的なはたらき-精神作用-を強めることが年来の課題であるはずなのだが、そこへ心が強く向かうには、身体の軸と気の流れとの相関によく気づくことではないかと思われる。

もっとも年季の入ったKomineは、Junkoとは対照的なほどに、強い精神作用が自身の身体をコントロール下に置くことができる。そうであるぶんその表象は良くも悪くも一定の硬質さをともなってしまうから、身体-内-知覚を通して自身の肉体を弛緩の方向へとどれほどDig-掘り下げる-していけるかが課題となり、その作業が呼吸を深めることへも通じ、彼女の表象の振幅をひろげよりDynamicなものとしていくはずだ。

私は四方館を創める頃より、気功や太極拳あるいはヨーガなど伝統的な東洋体育の身体技法は、自身の身体-内-知覚を深めかつ強めるものとしてよりBasicな技法であると捉えてきた。その考えから自身で太極拳の習得に励んだ時期もある。

私がそうしてきたように、BalletやDanceあるいはSportといった欧米の身体技法においても、これら東洋的な身体技法が接ぎ木され、さまざま変容してきた実際がひろく見受けられる。暗黒舞踏がButohとして世界中に受け容れられひろまりえたのも、ベースにこのSynchronism-同時性-があったゆえだろう。

いまあらためて回帰するかにみえるこの作業のめざされるべきは、表象を体現する彼女ら自身の身体-内-知覚へのはてしないDigであり、問題はその自覚の深度なのだ。


<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

「梅が香の巻」−31

   なは手を下りて青麦の出来 

  どの家も東の方に窓をあけ  野坡

次男曰く、名残ノ折の裏入。続いて野坡の句で、雑の作りを以てしている。

一読、無難な景の伸しのように見えるが、両句案は同時に、不可分の付合として出来たに相違ない。

東という字は四時では春に、五色では青に配する。東の方に窓を開けて青麦の出来を眺めた、と後付に読めば、「青麦」が季移り-初夏-だということもごく自然に解釈がつく。つくが、それだけでは連句与奪の面白みは生れぬ。何を以て次句の起情を促すつもりだろう。これは巡が裏入にあたる大事なところだけに、尚更気になるが、どうやら野坡の狙いは「東」を江戸だと覚らせることにあるらしい。

「虚栗」-其角編、天和3年刊-から数えて11年目。まず尾張に旗を揚げ、京に上った俳諧師が、深川の本拠で初めて指導する新風の撰集だった。「冬の日」「猿蓑」に続く、世に云う蕉風三変である。野坡の句は、映の江戸撰者になる、という喜びと責任がことばの端々に臨く作りだろう。

ここまでくると「東の方に窓をあけ」が、翻って、名残ノ折立「東風かぜに糞のいきれを吹まはし-芭蕉-」と絶妙な軽口の応酬になっていることに気がつく。むろん野坡もそのつもりで作っている筈だ。鼻つまみの元凶-東風かぜ-は自分だと先刻合点していなければ、取回してはこんできてこんなケリはつけられない、と。


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