屏風の陰にみゆるくわし盆
「梅が香の巻」−36
隣へも知らせず嫁をつれて来て
屏風の陰にみゆるくわし盆 芭蕉
次男曰く、「陰にみゆる」と作ったところ、内祝言にふさわしい小道具のあしらい様で、婚礼屏風の端から臨くこの菓子盆はいずれ輪花に象った塗盆であろう、と想像を誘う作りである。
本祝言-撰集の成就-が待遠しい、と芭蕉は云っている。そこに一巻三つ目の花が匂うが、歌仙は二花三月の遊だと承知していてこういう期待の情をあからさまに示されると、読者は、「炭俵」も亦三度目の新風だったとおのずから思出す。この透し花の暗示的効果は、芭蕉の計算にあったに違ない。他に例を見ない工夫だ。まったく、味なことをやる俳諧師である、と。
「梅が香の巻」全句−芭蕉七部集「炭俵」所収
むめがゝにのつと日の出る山路かな 芭蕉 −春 初折-一ノ折-表
処々に雉子の啼きたつ 野坡 −春
家普請を春のてすきにとり付て 野坡 −春
上のたよりにあがる米の直 芭蕉 −雑
宵の内はらはらとせし月の雲 芭蕉 −月・秋
藪越はなすあきのさびしき 野坡 −秋
御頭へ菊もらはるゝめいわくさ 野坡 −秋 初折-一ノ折-裏
娘を堅う人にあはせぬ 芭蕉 −雑
奈良がよひおなじつらなる細基手 野坡 −雑
ことしは雨のふらぬ六月 芭蕉 −夏
預けたるみそとりにやる向河岸 野坡 −雑
ひたといひ出すお袋の事 芭蕉 −雑
終宵尼の持病を押へける 野坡 −雑
こんにやくばかりのこる名月 芭蕉 −月・秋
はつ雁に乗懸下地敷てみる 野坡 −秋
露を相手に居合ひとぬき 芭蕉 −秋
町衆のつらりと酔て花の陰 野坡 −花・春
門で押さるる壬生の念仏 芭蕉 −春
東風かぜに糞のいきれを吹まはし 芭蕉 −春 名残折-二ノ折-表
たゞ居るまゝに肱わづらふ 野坡 −雑
江戸の左右むかひの亭主登られて 芭蕉 −雑
こちにもいれどから臼をかす 野坡 −雑
方々に十夜の内のかねの音 芭蕉 −冬
桐の木高く月さゆる也 野坡 −月・冬
門しめてだまつてねたる面白さ 芭蕉 −雑
ひらふた金で表がへする 野坡 −雑
はつ午に女房のおやこ振舞て 芭蕉 −春
又このはるも済ぬ牢人 野坡 −春
法印の湯治を送る花ざかり 芭蕉 −花・春
なは手を下りて青麦の出来 野坡 −夏
どの家も東の方に窓をあけ 野坡 −雑 名残折-二ノ折-裏
魚を喰あくはまの雑水 芭蕉 −雑
千どり啼一夜々々に寒うなり 野坡 −冬
未進の高のはてぬ算用 芭蕉 −雑
隣へも知らせず嫁をつれて来て 野坡 −雑
屏風の陰にみゆるくわし盆 芭蕉 −雑
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