賀茂川や胡麿千代祭り徽近ミ

Alti200601014

Information<四方館 Dance Cafe>

―世間虚仮― Soulful days -3-

脳浮腫と、二次性脳損傷としての脳ヘルニア

頭部外傷は脳組織や脳内あるいは脳の周囲の血管を傷つけたり引き裂いて、脳内出血、浮腫を引き起こす。最もよく見られる脳損傷は脳細胞のびまん性の広範囲にわたる損傷である。びまん性の損傷が脳細胞を膨張させ、頭蓋内圧を増す。結果として、力や感覚を失い、眠くなったり意識不明になる。これらの症状は、永久的損傷とリハビリテーションの必要性の高い重症の脳損傷を示唆する。浮腫が悪化すると圧が増加し、損傷を受けていない組織まで頭蓋に押しつけられて、永久的損傷や死に至る。危険な結果を伴う浮腫は通常外傷後48〜72時間内に生じる。

頭蓋内圧亢進の最終段階である。頭蓋内病変によって、脳組織が圧迫されると圧力が低い方に偏位する。一部の組織はさらに障壁を越えて、他のスペースに嵌入していく。脳幹の圧迫症状が出現し瀕死の状態となる。
頭部外傷によって、頭蓋骨よりも内側-頭蓋内-に血腫や脳のむくみ-脳浮腫-が生じると、脳は硬い頭蓋骨で囲まれて余分なスペースがないため、頭蓋内の圧が高まり-頭蓋内圧亢進-、軟らかい脳はすきまに向かって押し出されていく。この脳内組織が押し出されることを脳ヘルニアという。押し出された脳は深部にある生命維持中枢-脳幹-を圧迫し、呼吸や心臓の機能を損ないうことになる。


<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

「炭俵の巻」−07

   荻織るかさを市に振する  

  賀茂川や胡麿千代祭り徽近ミ  荷兮

胡麿-胡麻-、徽-やや-近ミ

次男曰く、初折裏入。「荻織るかさ」を見咎めて「振する」を神輿振に移した付だろう。神事にでも遣うかと思わせる物珍しい笠を、市に売るのは秋祭も近いからだと作っている。

「振」の本義は、揺り動かしてものの命を呼び起すタマフリである。神を社に鎮座させる意味にも遣えば、神輿を担ぐことにも遣う。振売ということばの生れも別ではない。荷兮句の仕立はその「振」の本末に思いをめぐらせているらしく、「賀茂川や」と据えたのもオギと水辺の縁だけではなさそうだ。

賀茂社の上方には神山があり、貴船社もあるから、前句にふさわしい祭の起源を水神信仰と結びつけて、荻笠売は川上からやって来た、と眺めて納得がゆく。
諸注は、笠の振売を祭の用に見替えた付と読んで済せているが、それだけのことなら初五を「賀茂川や」と据える必要もなし、「胡麿千代祭り」などという耳馴れぬ、曰くありげな祭の名を持出すこともない。

前句が、有りそうでじつは無いもの-荻笠-の趣向を立てれば、応ずるに同じ趣向を以てするよりは、無さそうでじつは有るのだと、虚実向い合せに作るほうが面白い。「胡麿千代祭り」とは、その、無さそうでじつは有る祭のことらしい。
雪中庵二世桜井吏登-嵐雪の後継者-が門人の問に答えたものを、同三世大島蓼太が板行した「芭蕉翁七部捜」に、この付合について次のような記述が見える。

問、胡麿千代祭いづくの事にや。
答、此祭は上加茂の川上に稲荷の祠あり。此神の好せたまふとて、其あたりことごとく胡麻を植るに、一本も枯るる事なし。そこで此祭を胡麻千代祭と云ならはし、又千歳の社とも云也。

川上という地名は、現在でも西賀茂の霊源寺東にのこっている。川を隔てて神山の西南、上賀茂社の西北にあたるところだが、昔から胡麻がよく育つと云伝え、いまでも作っている。

現代の注釈は、吏登の説は根拠が怪しいとして、祭の名は荷兮の作意と解する。胡麻千代祭は実在した祭だと私は思うが、かりに架空のものだとしても、京都の秋には古い起源をもつ奇祭は多い。そのことを諷した一名の工夫と読んでもそれなりの面白さは見える、と。


⇒⇒⇒ この記事を読まれた方は此処をクリック。