たび衣笛に落花を打払ひ

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INFORMATION
林田鉄のひとり語り「うしろすがたの山頭火」

―四方のたより― Dance Boxの行方

大谷燠率いるDance Boxの活動が、大阪から神戸へと、その比重を移しつつある。
震災復興の新しいまちづくりとして、文化創造の拠点づくりにも力を入れる新長田地区に、来春4月「ArtTheater dB神戸」をオープンする予定だという。

大阪での活動も継続させるべく大阪事務所を並立存続させるというが、その新事務所たる移転先はまだ決まつていない。

昨夏、大阪市第三セクター破綻処理問題でフエステイバルゲートを追われたDance Boxは、当座の代替施設としてあてがわれた元東淀川勤労者センターにあって、その過酷な環境下、創造拠点たる劇場の再開を模索し続けてきた訳だが、府市ともに財政再建団体転落の危機に瀕する大阪にあっては、あまりにも困難がつきまとったようである。


<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

「霜月の巻」−17

   我月出よ身はおぼろなる  

  たび衣笛に落花を打払ひ  羽笠

次男曰く、初折、花の定座。「我月出よ」の願を、ゆえあって旅をする人の感懐に読替えている。

訴訟などの公事か、受領か、軍旅か、それとも流謫か、いずれにせよ晴姿と云ってのけるわけにはゆかぬ二句一章だが、いろいろと差し合いが気になる。

「たび衣」と「薄衣」が四句隔、「落花」と「椿の花落る」が七句隔、花と桜は違うとはいえ「落花」と「さくら見ん」が三句隔、加えて同裏折に二度まで旅体の句が出る。それを承知で、月花続きの大切なはこびに、尋常だけが取り柄の遣句を以てするとは、理解に苦しむ。話を誘う面白い俤の一つも含ませてあると読取らせなければ治らぬ句で、手がかりは「笛」以外にはない。

「件の笛は祖父忠盛笛の上手にて、鳥羽院より給はられたりけるとぞ聞えし。経盛相伝せられたりしを、敦盛器量たるによつて、もたれたりけるとかや。名をば小枝とぞ申ける」、「平家物語」巻9「敦盛最後」の結びだが、その「平家物語」は、山陽・南海二道の海賊を討伐し、鳥羽院のために得長寿院を創建した功によって、武家棟梁で初めて内昇殿を許された平忠盛-清盛の父-のエピソードから始まる。

その一つに妻問の話がある。女は仙洞御所に仕える女房で、後にかの忠度の母となった熊野びとである。或時、忠盛が扇を忘れて帰ったところ、その扇の端に月の出が描かれていたので、さっそく傍輩の女房たちが「いづくよりの月影ぞや。出どころおぼつかなし」とからかった。かの女房の答、
「雲井よりただ洩りきたる-忠盛来る-月なればおぼろけにては言はじとぞ思ふ」

伊勢平氏-瓶子-は眇め-酢瓶-なりけりと日ごろ公家たちの囃だねにされていた男は、彼女の臆せず晴れやかな気性と、即妙の機才に愈惚れこんだ。「似るを友とかやの風情に、忠盛も好いりければ、かの女房も優なりけり」と「平家」-巻1、鱸-は書いている。因みに、忠盛も殿上の心ばえとその歌才を鳥羽院の御感に与った器量人である。

その忠度母の歌を内助の功として含ませればも「我月出よ」の志はなかなか面白く読める。「たび衣」はさしづめ、山陽・南海二道の海賊追捕に出立つ男の俤とでも読んでおけばよい、と。


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