何よりも蝶の現ぞあはれなる

080209039

Information−四方館 DANCE CAFE –「Reding –赤する-」

―四方のたより― びわの会

桃の節句が近いこの頃、例によって奥村旭翠一門総出による筑前琵琶の演奏会が、明後日の22日-日-、午前11時から夕刻近くまで、国立文楽劇場3階の小ホールで催される。
もちろん邦楽や邦舞のおさらい会のように、こちらも入場は無料の公演だ。

演目は全18曲、連合い殿が稽古に通い出してもう7年余りが経つから、概ね何度か耳にした馴染みの曲目がプログラムに連なるが、なかで眼を惹いたのは「項羽」なる演題。はて三国志ものなど珍しくこれまで耳にしたことがない。ちょいと後ろ髪引かれる思いがするけれど、このたびは3月のDance Caféを控えて、5番目登場の連合い-末永旭濤-殿の演目を見とどけたら直ぐに稽古に駆けつけなければならないから、拝聴は別の機会を期さねばなるまい。

先年、山崎旭萃嫗が逝かれ、その門下の師範3名が奥村旭翠さんに師事するようになって、門下に師範6名を擁する陣容を誇る充実ぶりは、琵琶の世界にあっていよいよ一門の存在を重くしているのだろうが、語り芸の奥行きはかぎりなく深い。旦那芸の趣味や嗜好レベルでは、ただ歳月ばかり重ねても、そうそう達意の芸と成りゆくものではない。
彼らの行く末や一門の隆盛あるも一に、師たる旭翠さん自身の、おのが芸の深みゆくを奈辺に見定めるか、そのまなざしその一念に掛かってこよう。

ともあれ、会を直前に控えての紹介なれど、関心ある向きは公演詳細を確認の上、運ばれてはいかがとお奨めする次第。

Information−「奥村旭翠びわの会」公演詳細−


<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

「花見の巻」−19

   巡礼死ぬる道のかげろふ  

  何よりも蝶の現ぞあはれなる  翁

次男曰く、名残折立である。

無常観相の付、拠るに「荘周夢に胡蝶となる故事」-斉物論篇第二-を以てしている。生死無覚、夢現不二、物化こそが実存世界だと云いたいわけだが、二句一章の嘱目としてもありえない景ではない。

天和2年、「虚栗」所収の其角・芭蕉両吟「詩あきんど」の巻-歌仙-に、面白い其角の付がある。
芭蕉あるじの蝶丁-たたく-見よ」
荘周の蝶にたわむれる人の戯れざまを見ろと云っているのだが、角のこの批評に芭蕉はその後もいろいろに答えている。
「二の尼に近衛の花のさかりきく-野水-」−「蝶はむぐらにとばかり鼻かむ-芭蕉-」-狂句こがらしの巻-
「霜にまた見る蕣-あさがお-の食-杜国-」−「野菊までたづぬる蝶の羽おれて-芭蕉-」-はつ雪の巻-
「いろいろの名もむつかしや春の草-珍碩-」−「うたれて蝶の夢はさめぬる-翁-」-春の巻-など。

荘子の斉物思想の喩のなかから特に蝶を取出して句材にしたのは、季語に遣えるという事情もあったろう。「花見の巻」の「何よりも蝶の現-うつつ-ぞあはれなる」は最も成功した例である、と。

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