迷うた道でそのまま泊る

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山頭火の一句昭和4年の早春か

これより先、昭和2.3年にかけてのいつ頃か、山頭火ははじめての四国遍歴をしている。その四国遍路のあと小豆島へと渡り、念願の放哉墓参を果たしている。暑い夏の盛りであったという。

昭和4年の正月は広島で迎えたようだが、この宿先から彼は、福岡の木村緑平宛に金策無心のハガキを出している。「新年早々不吉な事を申し上げてすみませんが、ゲルト五円貸して戴けますまいか、宿銭がたまつて立つに立たれないで困つてゐるのです」と。

この無心に緑平はすぐにも応じたのだろう、まもなく山頭火は田川郡糸田村-現・糸田町-の緑平宅を訪ね、何泊かしたかと見える。緑平宅を辞してから飯塚へ向かったのは、日鉄二瀬炭鉱に勤めていた息子の健-当時19歳-に会うためだったようだ。その飯塚から緑平に宛てた礼状のハガキに、この句が添えられていた。

―今月の購入本―
5月は、今福龍太の「群島−世界論」と白川静の世界に、ふと迷い込んだかのように茫漠と過ごしてきた感がある。
ひとまずは「群島−」を読み終えたところで、一日、気分転換とばかり、積み晒しのままにしていた多田富雄の「生命の意味論」を手にしたが、これが一服の清涼剤のごとくはたらいたか、茫とした脳も少しはすっきり。
とりわけ第1章「あいまいな私の成り立ち」で、免疫系あるいは脳神経系の詳説から、超システム-Super System-としての生命体を論じたすえ、「この超システム-Super System-に目的はあるかというと、ないのではないかと私は考えている」と記しているの出会し、一瞬この身が洗われるような爽快感が走ったものである。

白川静「字訓」-新訂普及版-平凡社
先月に続き白川静の字書三部作の一、’07年に出版された普及版の中古書。

白川静「文字逍遥」平凡社ライブラリー
漢字は線によって構成される、とはじまる書中「漢字の諸問題」の小題「線の思想」に、「すなわち横画は分断的であり、否定的であり、消極的な意味を持つ。これに対して縦画は、異次元の世界をも貫通するものである。それは統一であり、肯定であり、自己開示的である」と。

松岡正剛白川静 -漢字の世界観-」平凡社新書
広大無比、鬱蒼と樹海のようにひろがる白川静の世界、その生涯を尋ねつつ、学問・思想の全体像を描いてみせる

・今福龍太「クレオール主義」ちくま学芸文庫
クレオール主義とは、なによりもまず、言語・民族・国家に対する自明の帰属関係を解除し、自分という主体のなかに四つの方位、一日のあらゆる時間、四季、砂漠と密林と海とを等しく呼び込むこと−。混血の理念を実践し、複数の言葉を選択し、意志的な移民となることによって立ち現れる冒険的Vision‥。

山田芳裕へうげもの 1-4巻」講談社
千利休の連想から古田織部をモデルにした変わった面白い劇画があると聞きつけ珍しくも手を出してみた
他に、広河隆一編集「DAYS JAPAN 」5月号、シルヴィ・ギエムのDVD「エヴィダンシア」

―図書館からの借本―
・今福龍太「群島−世界論」岩波書店
群島とは、大陸的なるもの-近代国家や国語-の対極にある思考の一つの原理であり、制度的支配秩序の外部または裏面としての、時間・政治・言語の混淆した多様性を意味する。著者は、大陸的なるものに根ざすのではなく、海の潮流に身を委ねるように、群島的想像力により世界のVisionを反転させてみせる、独創的な文学論であり、J.ジョイス島尾敏雄、D.ウォルコット、或いはカリブ海クレオール詩人やゲール語で書くアイルランドの詩人たち、それらの文芸作品、遠く隔たった地で語られ書かれた言葉同士が、縦横に結ばれ共振する。

・諸川春樹「西洋絵画の主題物語 ? 神話編」美術出版社
・諸川春樹「西洋絵画の主題物語 ? 聖書編」美術出版社

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