茶の買置をさげて売出す

Santouka081130026


Information – 四方館 DANCE CAFE –「出遊-天河織女篇-」

―表象の森― 読書三昧にはとおく‥

60年代、70年代ならいざ知らず、80年代、90年代以降の現代美術の動向にはまったく不案内の身であれば、23人もの現代作家たちへのインタビューと精神科医独自の作家論が響きあう、斎藤環の「アーティストは境界線上で踊る」は、現在進行形のさまざまなアートシーンに通暁するという意味ばかりではなく、ずいぶんと刺激的な読書であった。
その名も初めて耳にした精神科医西丸四方の自叙記とも思われる「彷徨期」を求めたのも、本書の草間彌生インタビューに紹介された話題からだった。

―今月の購入本―
西丸四方「彷徨記」批評社
信州は東京から近いようで、最も遠い所にある、と語る精神科医が、信州松本にあってその生涯を、狂気の分析と治療に一切の情熱を傾けた、苦悶の彷徨記。-中古書-

・P.シャモワジー・R.コンフィアン「クレオールとは何か」平凡社ライブラリー
歴史に蹂躙され、歴史に忘れられた、地球上の小さな片隅、カリブ海地域で、300年ばかりのあいだに堆積し、だれにも属さない経験に耕され、地と汗と涙の滲みた大地から、やがて多彩な言葉の花が咲き匂う‥-裏表紙コピーより-。

白川静「文字遊心」平凡社ライブラリー
中国人のこころの諸相を捉えた「狂字論」「真字論」、古代人の生活誌ともいうべき「火と水の民俗学」、あるいは「漢字古訓抄」や漢字の諸問題など、広大にして豊饒な漢字の世界に遊びつつ、中国の歴史の深処にせまる。

白川静「漢字百話」中公文庫
太古の呪術や生活の姿の伝える、漢字の世界−厖大な資料考証によって、文字の原始の姿を確かめ、原義を鮮やかに浮かび上がらせる、10章各10話、100話の短章集。

・上野和男「縄文人能舞台本の森
考古学と民俗学の領野から、縄文期以来、この国の無意識を連綿と貫く宗教の本質を、「付会・習合・形の呪術」の三つの要素を媒介に解読を試みる。

・楠見朋彦「塚本邦雄の青春」ウェッジ文庫
「水葬物語」で鮮烈なデビューを果たした塚本邦雄の、謎に包まれた青年期あるいは習作期、知られざるその素顔に迫る。

他に、広河隆一編集「DAYS JAPAN 」6月号、山田芳裕へうげもの 5-8巻」講談社

―図書館からの借本―
丸谷才一後鳥羽院筑摩書房
後鳥羽院は最高の天皇歌人で、その和歌は藤原定家の上をゆく、と称揚する著者の院を中心に据えた文学史論。73年初版の増補版。

斎藤環「アーティストは境界線上で踊る」みすず書房
草間彌生・できやよいから、岡崎乾二郎にいたる現代美術の作家たち、現代日本のartist23人のインタビューと著者による作家論を並置した批評集。現代美術論として以上に、千差万別の個性が煌めくartistたちの肉声の記録として読み応えがある。

鈴木博之他「奇想遺産?−世界のとんでも建築物語」新潮社
世界中の奇妙な建築、可笑しな家・不思議な家を網羅した奇想遺産シリーズの?、朝日新聞日曜版の特集企画もの。

・j.ホール「西洋美術解読辞典」河出書房新社
キリスト教や古典文学など西洋美術に特有の主題・象徴・人物・動植物・観念・持物などについて、図像学の成果に基づきながら解説した、イメージを読むための美術基礎事典

―四方のたより― 今日のYou Tube-vol.13-
林田鉄のひとり語り「うしろすがたの‥山頭火」Scene.3


<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

空豆の巻」−14

  鯲汁わかい者よりよくなりて  

   茶の買置をさげて売出す  孤屋

次男曰く、打越の人茶舗のあるじらしき人に奪った付で、三句同一人物ではないが、景の句と違い人事句を渡りに使うと、はこびはとかく同じ一人の行為なり感想の付伸しと読まれやすい。それでは連句にならぬことぐらい、承知して作っている筈である。

「ながれたあとを見に行」と「さげて売出す」も、同巣と読まれかねない。捌きの考え方のむつかしいところだが、「家のながれた」は天災、「買置をさげて」は人情、と考えればきわどいところで縺れを避けた工夫も納得できる。どじょう汁で精力がついたら茶趣味がしらけた、という老人心理は納得がゆく。

新茶・古茶という季はあるが-初兼三夏-、茶、茶の買置は季語ではない。ないが、三句自ずと梅雨期頃と知られる遣方で、若返ったから古茶の大売出をしよう、と句は読んでよい。むろん新茶が含みだ、と。

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