霙ふるポストへ投げ込んだ無心状

20100112

−表象の森− 石川九楊「一日一書02」

曰く、北魏石刻書の到達点、張猛龍碑の<曜>。横画の間隔が詰まり、長い左はらいの勇壮な字。右上部は石の欠落。

曰く、小野道風の智證大師諡号勅書の<贈>。柔らかい筆先が穏やかに紙面を撫でるように進む婉曲の書きぶりは、女手-平仮名-の書法、つまり訓の姿の流入

曰く、伝・嵯峨天皇の李僑雑詠残巻の行書体の<樹>。水平運動力を抑制した起筆強・收筆弱の垂直運動力主体で書かれ、形は縦長。

曰く、伝橘逸勢の伊都内親王願文の<深>。構成は王義之風。旁第一筆の強く打ち込まれた起筆は鳥の頭を思わせる雑体書風。日本三筆の風景。

曰く、三蹟藤原佐理の離洛帖の<旅>。<方>は横画を最初に書き、第一画と第三画は繋ぐ。筆尖を開きひらひらと書き進む。
等、々‥。

まことに、書の表象の森は、その理法多彩にして、読んでいて尽きない愉しみがある。
本書は、'02年の元旦より大晦日までの一年間、京都新聞に連載したものに加筆したもの。
'01年、'02年、'03年と連載は3年に及んで、同工の書が3冊出版されている。

―山頭火の一句― 「三八九-さんぱく-日記」より-21-
1月17日、晴、あたたかだつたが、私の身心は何となく寒かつた。

帰途、薬湯に入つてコダハリを洗ひ流す、そして一杯ひつかけて、ぐつすり寝た、もとより夢は悪夢にきまつてゐる、いはば現実の悪夢だ。

今日は一句も出来なかつた、心持が逼迫してゐては句の出来ないのが本当だ、退一歩して、回向返昭の境地に入らなければ、私の句は生れない。

※表題句は16日付記載のなかから

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